ご都合主義な場





□□雑文@第六回雑文祭




三年経って、パンを食べていない。





三年前、クリーニング屋で見かけた母子の口から飛び出す言葉をしばらく眺めていた。泣く子供とあやす母は互いの行動の演技な部分を知っていると思う。子供は泣いて、本物のパンが食べたい、と言った。母はあやしながら、貯金下ろして食べさせてあげる、と言った。それだけで子供は泣き止んでしまった。母子は行ってしまった。


俺の食べてきたパンは百円前後だから、子供が戦略的に泣いたりしなくても食べれるし、貯金を下ろさなくても買えると思う。俺は偽物のパンを今まで食べていたのだろうか。『パンなんぞ美味いものではない』『パンは無駄主食だ』内心そうだと思い込んでいた。だが今まで食べたものが偽物だというならば話は別だ。


俺は世界大会で優勝したという人を訪ね、本物のパンを食べさせてください、と頼んだ。材料は最高のものを用意した。もう10万円どころではすまない。世界最高のパン職人は、世界最高の材料で世界最高のパンを焼いた。


俺は食ったが、パンだった。なんだ、こんなものか。こんなものだろうなと思いながら、まだ納得がいかない。ふと考えて、偽パンと本物パンの関係は、カニかまと蟹の関係ではないかと思った。俺は世界最高の材料で世界最高のカニかまを作らせただけじゃないかと思った。そう思うと、どうにも腹が立って、それでも食べたくてたまらない。


母子の会話から三年後の今日、俺はまだパンを食べていない。

2003/11/30 23:58





第六回雑文祭

戻る