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「八重山見聞録・第二シーズン開始にあたって」

 八重山見聞録・第一シーズンは概ね好評だった。
ありがたいことである。

 本来的読者である インターネット利用者や、私個人の友人知人から寄せられた感想の多くはそうだった。
それでも世間は広いからもしかしたら悪意ある感想を筆者に覚えた方々もいるのかも知 れないが、幸いなるかな私の元へ批判文が郵送されたりEメールされることはなかった 。
ただ、小耳にはさんだところでは「八重山を悪く書いている」などと宣う方もいたようではある。しかしながら斯様にも単純な批判には筆者の立場から断固として申し上げ ねばならない。
一言で言えば「それは見当違いである」とでもなろうか。

 いや、見当と 言うよりも思想が違うのであろう。
つまり私は、人の営みをも森羅万象として捉えているのであり、森羅万象に善いも悪いもあるわけがないと思っている。
だが、単純に批判 する方々は私個人が好まざるものとして書いた記述部分を殊更に取り上げて
「八重山を 悪く書いている」と批判する。
これには思想の差もあろうが、読み込みの未熟さも関連しているように感ぜられる。
何故ならば私はただの一度だって『好まざるもの=悪いもの』とは論じていないのであり、にも関わらず私が八重山を悪く書いていると思う場合それはそう思う人自身の思想に他ならず、手前勝手な誤解なのである。
要するにその人自身が『好まざるもの=悪いもの』と考えているのであり、私の文章をもその思想と思い込みに沿って読んでいるに過ぎないわけだ。
筆者の立場としてはたいへん迷惑なことであるがこれもまた世の常であり、他人を誤解し己をも誤解することで人は人として人 たらしめられているわけであるから当方としては積極的に誤解を解くつもりはない。

 もし仮に世の人々すべてが他人を理解し己の正体をも見抜いたならば世の中には狂人が溢れ返り、社会的生物たる人間界は収拾のつかぬ 有様と化すのは確実であろうから、やはり誤解は誤解で放っておいたほうが無難かと存ずるのである。

 まあ、それでも一応は今後そういった誤解を多少とも減じるべく私個人の思想の一端をここ述べておく。

それは『人に悪人も善人もない』と言うことである。

性善説も性悪 説も私は認めない。
思い込みの激しい動物である人の行為そのものに善意なり悪意なりが込められていることを否定するものではないが、人の存在そのものには善も悪もないのである。
例えば私が、ある個人の一行為を好まざるものとして記述したからと言って 、それをもって悪人だと決めつけているわけでもなく、ましてや数多くの行為のうちの 一つが好まざるからと言ってその人の全人格を否定しているわけでもない。
少年マンガ の人物設定のような単純極まりない人間性は現実には存在し得ないのであり、一つの人 格に多面性や多様性があってこそ全人格の均衡をなし得ているということを私は常にふまえているつもりである。

但し、世間は広いのでそういう大前提を踏まえていない方々もいる。
そういう方々は言う。
人間には二種類あり、世の中には善人と悪人がいるのだと。
勧善懲悪ものの時代劇やマンガの読み過ぎである。
たいへんやっかいな人たちである。
こういう人たちが往々にして戦争を起こすのであり、当方の八重山見聞録を単純に批判するのである。

 四万五千人からの人間が住む保守的な土地柄の八重山にあって、善いものばかりがあるわけでもないし、悪いものばかりがあるわけがない。
いや、言わずもがな善いも悪いもない。
滔々と流れゆく南島の人間の営みがあるばかりである。
つまりそういうことだと御理解願いたい。

 ここに書かれることのすべてはあくまでも私の視点であるし、私個人の関心が向くことしか取り上げられない。
故に八重山見聞録の中に述べられたことのすべては真実でも事実でもなく、私の思考回路を経たのちに記述された虚構でしかないのである。
紀行文 やエッセイ、ノンフィクションなどの類の文章が事実や現実に立脚していると思っている方々は世の中に多いと思うが、それがたいへんな間違いであることを最後に申し上げ ておきたい。
それらはすべて記述者の思考・思想・思い込み・思い入れ・うぬぼれ・誤 解・見当違い・トラウマ・悪意・依怙贔屓・スポンサーやクライアントの存在などによって歪曲された虚構でなのである。
勿論、拙著・八重山見聞録もその例に洩れぬことは 言うまでもない。

 であるからには読者諸氏がそのことを踏まえ、文章表現や言葉の使 い方などの裏側に隠された筆者の立場や人間性などにも穿った視線を向けながら読んで頂ければたいへん幸いである。
ま、それは往々にして誤解に終始するものであるわけだ が。

セバスチャン・隆 改め 仁科 隆

次回は「愛想」です。

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