死刑になりうる罪(第四版)

 現在、法定刑に死刑がある罪および、その適用状況を紹介する。ただし、現在削除されている条文の中で、「尊属殺人罪」のみ、特に記した。これは、戦後における死刑確定事件の中に適用例があるからである。
 罪の「内容」は、法の条文ではなく、笑月風に罪の定義をくだいて解説する。
 その前に、次の用語は、事例紹介の際に欠かせないものなので、特に解説しておく。

 観念的競合
 ひとつの犯罪行為が、複数の罪に触れるときは、それらの罪のうち、(上限・下限ともに)最も重い刑で処断する。(刑法54条)
 ただし、複数の罪の最高刑が同じ場合は、犯情によってその軽重を定める(刑法10条3項)。
 例えば、加害者が被害者を殺害しようと思い、被害者を爆弾を爆発させて死亡させた場合、この加害者は殺人罪及び爆発物取締罰則違反(1条:爆発物使用)が該当するが、殺人罪の刑は死刑・無期懲役(禁固)・懲役5年以上の有期懲役(禁固)であるのに対し、爆発物使用罪は死刑・無期懲役(禁固)・懲役7年以上の有期懲役(禁固)である。
 ゆえに、この加害者は7年未満の刑に処することはできない。しかし、最高刑は同じ死刑なので、そのうち犯情が最も重い罪で処断することになる。

 なお、実際にどの程度の犯罪で死刑になるかは、死刑になる犯罪を参照のこと。
 最後に、このページを更新したのは、2009年7月24日から「海賊行為の処罰及び海賊行為への対処に関する法律」が施行されたためである。

死刑になりうる罪の一覧

灰色の部分は、現在ない条文

法名 条項 罪名 内容 刑の範囲
刑法 77条1項 内乱首魁 国の統治機構を破壊、もしくはそれを目的として暴動した者の首謀者(全国的・地域的を問わない) 死刑、無期禁固
81条 外患誘致 外国と通じて日本国を武力攻撃させた 死刑
82条 外患援助 外国が日本国に対し武力攻撃したときに、侵略国に軍事上の援助を与えた 死刑、無期懲役、2年以上の有期懲役
108条 現住建造物等放火 現在人がいる建造物・列車・船・鉱坑を放火して燃やした 死刑、無期懲役、5年以上の有期懲役
117条1項前 激発物破裂 爆発しうる物を爆発させて建造物・列車・船・鉱坑を壊した 死刑、無期懲役、5年以上の有期懲役
119条 現住建造物等浸害 現在人がいる建造物・列車・船・鉱坑を水で損なった 死刑、無期懲役、3年以上の有期懲役
126条3項 船車覆没致死 現在人が乗っている列車・船を転覆や沈没させて破壊し、それによって人が死亡した 死刑、無期懲役
127条 往来危険による船車覆没致死 何らかの方法で列車や船の安全な運行を妨げて船車覆没致死の結果を招いた 死刑、無期懲役
146条後 水道毒物混入致死 水道や水源に、身体に悪い物を入れて人を死亡させた 死刑、無期懲役、5年以上の有期懲役
199条 殺人 殺意を持って人を死亡させた 死刑、無期懲役、5年以上の有期懲役
200条 尊属殺人 自分又は配偶者の尊属者(実・養を問わない、ただし継親は除く)を殺害した 死刑、無期懲役
240条後 強盗致死 強盗が人を死亡させた 死刑、無期懲役
241条後 強盗強姦致死 強盗が強姦の際に人を死亡させた 死刑、無期懲役
爆発物取締罰則 1条 爆発物使用 治安を乱したり、人の身体や財産を傷つける目的で爆発物を使った
もしくは人を使ってやらせた
死刑、無期懲役、7年以上の有期懲役
決闘に関する件 3条 決闘による殺人 決闘で人を殺した 死刑、無期懲役、5年以上の有期懲役
航空機の強取等の処罰に関する法律 2条 航空機強取等致死 何らかの方法で航空機を抵抗不能の状態にして航空機を乗っ取った結果、人を死亡させた 死刑、無期懲役
航空の危険を生じさせる行為等の処罰に関する法律 2条3項 航空機墜落致死 航空機を墜落・転覆等させたり破壊したりして、その結果人を死亡させた 死刑、無期懲役、7年以上の有期懲役
人質による強要行為等の処罰に関する法律 4条 人質殺害 二人以上が共同して凶器で脅して人を捕らえた者、又は航空機を乗っ取ってその乗員・乗客を人質に取った者が、第三者にやる義務の無いことをやるよう要求した上、人質を死亡させた 死刑、無期懲役
組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律 3条7号 組織的な殺人 団体の意思決定による殺意をもって、組織により殺害がなされた 死刑、無期懲役、6年以上の有期懲役
海賊行為の処罰及び海賊行為への対処に関する法律 4条1項後 海賊行為での殺人 船に乗って、他の船の乗員を脅して、船や船中の物を奪ったり、人質を取る際に、殺害がなされた 死刑、無期懲役

適用状況

 戦後においては、内乱首魁・外患誘致・外患援助・航空機墜落致死の事例は発生していない。また、決闘による殺人は、明治初期に決闘も犯罪と明記するためにあえて記した法であり、現在では刑法の殺人罪に吸収されている。
 爆発物等浸害・現住建造物等浸害・往来危険による船車覆没致死・水道毒物混入致死・人質殺害・組織的な殺人・海賊行為での殺人の各罪に関しては、適用例を確認できなかった。なお、一般的な営利誘拐殺人事件の場合の主要罪名は「殺人・身代金目的拐取・拐取者身代金要求」となっている。
 実際に戦後死刑確定事件に適用された処断罪名は、現住建造物等放火・殺人・尊属殺人・船車覆没致死・強盗致死(強盗殺人)・強盗強姦致死(強盗強姦殺人)・爆発物使用である。

1:現住建造物等放火罪

 適用例は少なくないが、その殆どは強盗殺人罪との観念的競合により、強盗殺人罪に吸収されている。また、まれに殺人罪との観念的競合により、現住建造物等放火罪で処断されることもあるが、統計などでは殺人に計上されている。
 現住建造物等放火罪のみで死刑が確定した事例は1つだけである。これは引揚寮の所有者が寮に保険金をかけて放火し、その結果8人が死亡したという事例。8人に対しては殺意が認められなかったので、殺人罪は適用されていない。

2:船車覆没致死罪

 適用例は、三鷹事件及び横須賀線爆破事件のみである。三鷹事件は船車覆没致死罪のみであるが、横須賀線爆破事件は殺人罪・爆発物使用罪との観念的競合である。
 いずれも船車覆没致死罪で処断されているが、横須賀線爆破事件は統計によっては殺人罪に計上されている。

3:殺人罪

 確定数でいえば、毎年一桁づつの確定があり、1948−2001年中の死刑確定事件では127件の適用がある。ただしこの件数の中には、現住建造物等放火罪との観念的競合のケースも含まれている。この処断罪は、現住建造物等放火罪となる。

4:尊属殺人罪

 死刑事件では、1948−2001年中の死刑確定事件では7件の適用がある。この中には、殺人罪との観念的競合の事例は含まれている(処断罪が尊属殺人罪になるため)が、強盗致死罪との観念的競合は含まれていない。親の所へ強盗入って殺害したような事例は、後者になる。
 純粋な尊属殺人罪による死刑確定事件は64年の確定者を最後に見られない。
 この条文は、73年の最高裁判決を境に、死文化され、平成に入って刑法から削除された。

5:強盗致死罪(強盗殺人)

 死刑犯罪の王様と言える犯罪。死刑確定事件の80%以上が強盗殺人・強盗致死などの刑法240条後段である。1948−2001年中の死刑確定事件では512件の適用がある。この殆どは、殺意の認められる強盗殺人罪である。
 昔は1年間において、強盗致死罪の確定数は殺人罪の確定数の数倍〜数十倍の及んだが、1970年代後半以降はさほど差がなくなっている。

6:強盗強姦致死罪(強盗強姦殺人)

 強盗強姦致死罪は、事例自体が多くないため、死刑確定事件も少ない。1948−2001年中の死刑確定事件では3件の適用がある。ただし、この中には別個に強盗致死罪を犯している場合を除いた。
 強盗強姦致死罪は、適用できるケースが限られているため、多くは強盗致死+強盗強姦になるケースが多い。というのは、この罪が成立するには、「強盗が強姦の結果人を死亡させた」場合に限るので、最初から強盗殺人の目的を持った場合や、強姦はしたけれど、強盗を行っている最中に人を死亡させたり、強姦中でも、強姦されている相手以外を死亡させた場合などは、あてはまらない。
 なお、1954年以前は殺意があった場合を罪名を強盗強姦殺人として適用していた例をみかけるが、それ以後は強盗殺人+強盗強姦となっている。
 近年では、この罪が適用される事例は、殺意が無いので、死刑が適用されることがないようである。

7:爆発物使用罪

 多くはない。1948−2001年中の死刑確定事件では5件の適用がある。
 死刑確定事件において、この罪名が適用された事例は、例外なく殺人罪との観念的競合となっている。爆発物使用罪で処断されることが多いが、殆どの統計では殺人罪に計上されている。
 有名な事件としては反日武装戦線、道庁爆破事件、横須賀線爆破事件(ここでは非計上)がある。他に、愛人を爆殺した例などがある。



参考資料

犯罪白書
矯正統計年報
死刑の理由(井上薫)
刑法(小野清一郎他)


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