第8章。絶対的無輸血はいかなる状況でもなしうるか?



   エホバの証人はその信条として「血を避けること」を持っています。医療としての血液の利用もその観点

から絶対的に避けるようにしています。これを「絶対的輸血拒否」と言います。証人たちがこの立場をつらぬこ

うとすると、しばしば医師との衝突が生じます。なぜならば医師は「相対的輸血拒否」、つまり、できるだけ輸

血はしないように努力するが、最終的な局面で輸血が必要になったら果断なくこれを行う、という方針しか受

け入れられないからです。そうしなければ結果として患者の命を救うことは出来ないと強く信じているからです。


   いささか前置きが長くなりましたが、本題に戻りましょう。絶対的無輸血、これは現代において医学に関

わる人たちの命題とも言えます。これまで述べてきたように、輸血には様々な副作用があるためです。究極

的には「代用血液」の開発が望まれますが、まだ実用化は先のようです。そういった状況下にあって絶対的

無輸血を実施しようとなると様々な問題が生じます。これまで本サイトにおいて多くの輸血に関する情報を掲

載してきましたが、そのほとんどが手術に際し、前もって時間的余裕がある場合、を想定して書かれてきまし

た。しかしその逆、つまり緊急手術の場合どうでしょうか?


    緊急手術と聞いてすぐに思い浮かぶのは、交通事故で大量出血が見られる場合、です。普通、人間の

血液の総量は体重のおよそ8%と言われてます。体重60kgの人であれば、だいたい5リットル程度でしょう。ど

の程度出血したら、人間は死んでしまうのかというと、これは出血前の健康状態・体重・性別・出血のスピード

によって異なるため一概には言えませんが、だいたい全血液量の30-40%と言われています。したがって、体

重60kgの人であれば1500-2000mlの出血がある場合、失血死を招きかねない状況であると言えるでしょう。


    この場合、前章で述べた、閉鎖回路による希釈式自己血輸血の方法は、失血しているためもう使えま

せんから、輸液による血液総量の確保・エリスロポエチンの投与による赤血球増加の促進などしか方法がと

れず、かなり苦しい状況になってしまいます。通常この場合、医者が救命の為に行う方法は1つ、つまり輸血

のみです。


    事故ではありませんが、意外に多い緊急の輸血の1つに「分娩時の大量出血」があります。そのため、

出産前には「輸血療法同意書」にサインを求められる場合がほとんどです。くわしくはこちらをご覧ください。ま

たエホバの証人女性の分娩時出血による死亡率について、アメリカ産婦人科学会誌の研究結果として次の

ような記事が出ています。記事の全文はこちらをご覧ください。

アメリカ産婦人科学会の機関誌であるAmerican Journal of Obstetrics and Gynecologyは、ニューヨークの

マウントサイナイ・メディカルセンターでのこれに関する研究結果を2001年11月の誌上で公表しました。これに

よりますと、1988年1月から1999年12月までの11年間に、332人のエホバの証人の女性がこの病院で、のべ

391回の分娩を行ないましたが、このうち24人が分娩時の大量出血を起こし、そのうちの二人は最善の無輸

血治療の甲斐も無く死亡しました。この死亡率統計は、輸血拒否をしない一般女性の死亡率、10万回の生

存出産に対し12人の母体死亡、に比べると、エホバの証人は10万回の生存出産に対して512人の母体死亡

という、何と44倍という高率の死亡率になると論文は伝えています。



     391回の分娩に24回の大量出血例が見られ、残念ながらそのうちの2名が亡くなってしまったことが

書かれています。(注:マウントサイナイ・メディカルセンターという病院は最先端の無輸血治療を行う病院だ

そうです。)


     現代の最高の医学をもってしても、絶対的な無輸血と言うのは極めて難しい状況にあるというのが、

よくお分かりいただけたことかと思います。



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