11章.「説得」を読んでの感想。



   1985年、神奈川県川崎市高津区の交差点で、小学5年生の乗る自転車がダンプカーに巻きこまれると

いう事故が起きました。普通であれば新聞の片隅でベタ記事で終るこの事故を巡り、日本中が大騒ぎになり

ました。言わずと知れた「大ちゃん事件」です。マスコミは「生きたい」と言った少年の意志を無視して、両親の

信仰ゆえの輸血拒否は許せないというバッシングの嵐となってしまったのでご記憶の方も多いことだとも思い

ます。(もっともエホバの証人でこの事件を知らない人はもぐりであろう。もしくはごく最近証人になったので、

知らないのかも知れないが・・・。) 


   この事件が起きた当時、新聞記事を読んで疑問を持った一人の大学生がいました。彼は「どうして両親

は輸血を拒否して子供をしなせてしまったのか、医師たちはどうして救えなかったのか、どうして警察はなにも

手だしすることが出来なかったのか」という疑問を持ちづづけました。そしてとうとう事件の関係者に実際に話

を聞くべく渦中に飛び込んで行きました。それがこの著者である大泉実成氏です。


   彼は事件の当事者、つまり大ちゃんの家族になんとか接触したいと考えました。そして彼の交わる会衆

の研究生となり、大ちゃんを取り巻く環境や会衆の人々の様子を知る方法を取りました。彼独特の人物評と

いいますか、軽妙な語り口は読むものをエホバの証人の世界がなんたるかを分かりやすいものにしているな

と感じました。

 

   彼はこの本で20代では初めての講談社ノンフィクション対象を受けることになりました。そのことは読む

前から知っていたのですが、克明かつ詳細な文章であるためそれも当然だと思いました。この本もすべての

エホバの証人に読んでいただきたい本です。


「説得-エホバの証人と輸血拒否事件-」  大泉実成著

ISBN4-7684-5564-6 ¥2000




さて、この本を読んで分かった、この事件について端的な事実を述べたいと思います。

 

1.事故が発生した直後、大ちゃんの意識は鮮明であり、救急隊員に対してはっきりとした受け答えをして

  いた。(両足の開放性骨折)

2.病院の医師たちも「この程度の怪我であれば、輸血すれば十分助かる。」と考えた。

  (医師の初診時の所見には「入院60日」と書かれていた)

3.大ちゃんが「生きたい」と言ったという事実はなく、実際は父親である荒木氏が朝日新聞の記者に「唇が生

  きたいと言ってるかのように動いていた」というのが事実である。(医者も新聞記者も大ちゃんが「生きたい

  」と言ったことを聞いてはいない、ということ)

4.死因は事故による出血性ショック死、である。

5.信者である両親の保護責任者遺棄、医師の業務上過失致死などといった刑事責任は問われなかった。

6.ダンプカーの運転手だけが、業務上過失容疑で書類送検され、罰金15万円に処せられた。

  (大ちゃんが生きていれば「業務上過失致傷」で済んでいた、この差はかなり大きい。)



これを見てどう感じるかは読む人の自由である。がしかし、私が言いたいことが一つだけある。それを最後に

述べておきたい。「大ちゃんの両親がエホバの証人でなければ、大ちゃんは現在28歳の青年だったことで

あろう」と・・・・。




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