第7章。自己血輸血について。



  第3章において、輸血には副作用や感染症の危険性があることを述べました。それらのリスクを回避する

ために様々な方法が考え出されてきましたが、その1つが「自己血輸血」です。通常、輸血と言えば他人の血

を取り入れる方法を考えがちですが(それらを同種血輸血と言います)、それに対し、自分の血液を事前に

用意しておく方法を「自己血輸血」と言います。この方法にはかなりのメリットがあります。何より自分の血液

ですから、同種血輸血に良くある拒否反応や感染症に伴う副作用を全て回避することが出来ます。まずは

順をおって、その種類や方法について述べたいと思います。



1.術前貯血式自己血輸血

   術前に時間的な余裕があり、出血予想量が600〜1600mlぐらいの患者であれば、この方法は良く用い

られます。術前の3、4週間位前から400mlづつを数回に分けて採血しておき、遠心分離にかけて赤血球は冷

蔵保存、血漿を冷凍保存します。総採血量は1200ml程度がベストであり、最終的な最終的な採血は術前の

3日前までに終えられます。術中・術後に600mlの出血が見られた場合、赤血球が輸血されます。

   採血すると血液中の鉄分が不足しますから、補給するために鉄剤を投与されますが、合わないタイプの

人はこれによって胃を荒らしてしまう副作用があります。また赤血球数も必然的に減りますので、エリスロポエ

チンという人工の製剤を使って赤血球の増加を働きかけることも同時に行います。

   この方法は体重の少ない小児には使えず、最低でも10〜15kgの体重が必要だと言われています。

また全くの副作用がないわけではなく、血管迷走神経反射(VVR)、不均衡症候群、皮下血腫などを起こす可

能性はありますが、いずれも軽症ですので、命に別状があるほどの副作用ではありません。

   この方法はエホバの証人は使うことが出来ません。なぜならば血液が閉鎖回路から切り離されており

循環していないからです。



2.希釈式自己血輸血

   この方法は手術の直前に行われます。(よって緊急手術においても使えるというメリットがある) まず全

身麻酔をかけ、出血予測量に応じて400〜1500ml程度の血液を抜き取ります。それと同時にデキストランとい

った輸液を同量補います。(しかし4章でも述べたように、輸液は25%程度しか血管内には留まりませんから

注意が必要となってきます。)術中の出血量に応じて、自己血200mlと代用血漿200mlを交互に輸注します。

   術中には麻酔がかかっているため酸素消費量が減りますから、そのことを利用して薄い血液で麻酔中

の酸素運搬をまかなう方法なわけです。しかしこの方法にもデメリットがないわけではありません。まず心疾

患がある場合、心臓への負担が大きい方法であるために使えません。また凝固異常による出血傾向のある

人や敗血症の人にも使えません。

   この方法も術前貯血式自己血と同じ理由で、エホバの証人は使うことが出来ません。



3.回収式自己血輸血

   これは術中と術後の二つの方法があるのですが、術後回収式の方はデメリットが多く、あまり使われて

いない方法であるため、ここでは術中回収式自己血輸血について述べることにします。これはいわゆる「セル

セーバー」という機械を用いて行われる方法で、手術中に傷口から出る血液を吸い取って回収し、生理食塩

水で洗浄し、綺麗に濾過した後、赤血球のみ静脈から返血するという方法で、出血量の多い手術ではよく

用いられる方法です。

   しかし、手術部位が限定されますし(悪性腫瘍の場合は不可)、機器自体や消耗品が高価であるという

問題もあります。この方法はエホバの証人は受け入れます。なぜならば血液が閉鎖回路内を循環しているか

らです。

 術後回収式が行われる条件としては、出血した血液が汚染されてないことが挙げられます。この方法は洗浄せずにそのままの

血液を返血するため、血漿不足も補えると言うメリットがあります。しかし、この作業に伴うコストや感染のリスクなどを考えると適応は

限られると言うのが専門家の一致した見方です。



4.エホバの証人が受け入れられる希釈式自己血輸血

   ここまでで述べたことでお分かりのように、エホバの証人から見て受け入れられる条件は、「閉鎖回路内

を循環していること」と「血液が自己の身体を離れないこと」であることを良く理解できると思います。そのため

に考え出された方法が閉鎖回路による希釈式自己血輸血です。くわしい図はこちらをごらんください。


   この方法ですと証人が求める2つの条件を満たしていますが、普通の希釈式よりもヘモグロビンの節約

効果が少ないことや輸液量の増加に伴う心臓や肺への負担増加を考えると、必ずしも万全の方法であるとは

言い難いと思われます。




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