第9章。無輸血手術は安上がりな方法?



   目ざめよ!誌2000年1月8日号には「無輸血治療 -高まる必要性」という記事が出ています。これは

協会の公式ウェブサイトにも載せられている記事です。くわしくはこちらをご覧ください。内容としては輸血

には危険性があり、代替治療にもっと目を向けるべきであるということで、筆者としてもその点は同意出来

る点であります(無輸血のデメリットについてきちんと情報を載せていれば、もっと素晴らしい記事になった

のにとは感じてますが・・・。) 


   記事の最後の方には医師とのインタビューが掲載されていますが、その中で気になる点があったので、

この章ではそのことについて論じてみたいと思います。つまり「無輸血治療は安上がりな方法であるか?」と

いう点です。記事を引用させていただきます。

http://www.watchtower.org/languages/japanese/library/g/2000/1/8/article_03b.htm より。


無輸血で行なうなら,費用は高くつきますか,それとも安くなりますか。

アーンショー氏: 安くなりますね。

シャンダー博士: 無輸血医療によって,費用は25%節約できます。

ボイド博士: それだけでも,無輸血手術を採用すべきだと言えますよ。

筆者が残念に思うのは、この発言の根拠が全く示されていないことです。医者が言うからすべて正しいこ

となのだ、というのは受け入れ難く、根拠があってこその発言の信頼性が保てるのではなかろうかと考える

からです。特にアメリカは日本ほど健康保険制度が充実しているわけではないので、患者にとって手術コス

トの問題は日本以上、です。平均的に25%のコストダウンがなされるのであれば、ほとんど全ての手術は

無輸血でなされるのではないでしょうか? 


    では実際のところ、無輸血手術でコストは削減されている(安上がりになっている)のでしょうか?。そ

の点を検討してみましょう。まず考えなければならないのは、血液や血液製剤の価格でしょう。人工的に作

りだされる薬剤と違って、こればかりは人間によって、つまり献血によって支えられていますから、どうしても

価格は高い物になります。それは血液の安全性を確保するために様々な検査がなされており、普通にこれ

らの検査を病院で受けると保険の点数は1000点つまり1万円は軽く越えてしまいます。では実際に血液と血

液製剤の価格というのはどのようなものでしょうか? 神戸大学医学部輸血部のHPでは次のようになってい

ます。こちらをご覧ください。人全血液で1単位(200ml)5500円、濃厚赤血球で12000円、アルブミン製剤では

3000-7000円となっています。手術によってはこれらをかなりの単位数使うことも少なくありませんから、無輸

血で手術が行えばこれらの金額はゼロにすることが出来るでしょう。その意味では「費用は安くなる」と言えま

す。


    しかし、それはあくまで無輸血でやれる場合、という前提条件があることを忘れてはなりません。また、

個々のケースによって考えなければならないでしょうし、入院から退院までのトータルの金額、つまり手術の

予後がどうなのか、という点も考慮されるべきではないでしょうか?


    目ざめよ!の記事には、無輸血治療を行うに際しての使用する薬剤について書かれています。

薬剤: 遺伝子操作を行なったタンパク質を使い,赤血球(エリスロポエチン),血小板
(インターロイキン-11),さまざまな白血球(GM-CSF,G-CSF)の産生を刺激することが
できる。



    上記の薬剤を使った方法を「サイトカイン療法」と言います。順を追って説明することにしましょう。

1.エリスロポエチン

    この働きは赤血球生成促進作用です。現在では遺伝子操作により、人工的に作り出す(リコンビナ

ント製剤)ことができるようになりました。術前にこれを注射することでヘモグロビンの値を高く保ったまま手

術が行えるというメリットがあります。良いことづくめのように見えますが、効果が出るまで数日かかることと

現実的な問題として高価である、という問題があります。健康保険の診療点数に入らない、つまり全額実費

を負担しなければなりません。(正確に書けば、貯血式自己血輸血の場合にこれを認めているのですが、

エホバの証人はこの方法を受け入れませんから除外しています。) 結論としては、大鐘稔彦医師が述べた、

「これは保険の適用はされないから自己負担となる。さらにこれは慢性の貧血には効果があるものの、手術

中の大量出血を補いうるものではない」という言葉がすべてではないでしょうか?


2.インターロイキン-11

     インターロイキン-11は、血小板の回復促進に効果が発揮される物質です。ただ、この方法はまだ新

しい手法であるため詳しい臨床データがないのも事実のようです。


3.G-CSF

    記事にも書かれているように、白血球の産成に効果があります。主に抗がん剤を投与された後の白血

球減少に使用されることが多いようです。副作用としては、骨の痛みも残る場合があるとされています。

 

   これらのサイトカイン療法は患者本人の造血能力にのみ依存しますから、理想的な輸血回避策と言わ

れていますが、効果の出方が人によって異なるということと、効果を発揮するための反応時間がかかるという

ことも指摘されています。また遺伝子組替え型のサイトカインが大量に流通するようになったものの、依然とし

てこれらの薬剤は高価であることに変わりはありません。また非生理的な大量投与による副作用があること

指摘されています。   


   また自己血輸血の章で述べた「回収式自己血輸血」ですが、これも機械自体が高価であることに加え、

輸血用フィルターといった消耗品も高価であるというコストの問題を挙げる専門家も少なくありません。なので

この設備をもつ病院というのは必然的に大病院しかないとも言われています。


   ある医師はこのように述べています。「無輸血を強行するために生じる重症の急性貧血により、入院期

間が長くなったり、通常は使用しない高価な薬剤を使ったり、集中治療室入室が必要になったりと、同じ手術

の他の患者さんよりも随分医療費がかかってしまい、健康保険による負担も増大します。」 (出典元はこちら


   実際のところ無輸血治療のために起きる貧血状態ゆえに、術後もICU(集中治療室)をすぐに出ることの

出来ないケースが報告されているようです。先ほどと同じ医師はこのようにも述べています。「「エホバ」の患

者さんの手術・術後管理を無理に無輸血で行い、長期間重度の貧血状態が続くと、たとえ救命できたとして

も、腎不全他の臓器障害をおこしたり、術後出血や縫合不全といった合併症の確率が高くなったり、また手

術後の回復が通常よりも遅れるために、入院期間が長くなったり、本来は必要がなかった集中治療室への

入室が必要になったりします。」 


   手術というのはケースバイケースですので、一概には言えないのですが、無輸血手術が必ずしも安上

がりな方法とはなりえないことをお分かりいただけたことと思います。



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