updata 2000.11.26
宇治拾遺物語 巻第十四
 十 御堂関白の御犬、晴明等、奇特の事

<御堂関白を白犬が止める>
今は昔、御堂関白殿は法成寺を建立なされてからは、毎日御堂においでになられていたが、白い犬をかわいがってお飼いになっていたので、その白い犬はいつも御堂関白から離れずにお供をしていた。ある日、いつものようにお供をしていたが、御堂関白殿が門を入ろうとなさると、この犬が御前にふさがるように回って、中にお入れしようとしなかったので、「どうしたのだろう」と、車から降りて入ろうとなさると、御衣の裾を咥えて、引きとどめ申し上げようとしたので、「きっと何かわけがあるのだろう」と、踏み台を召し寄せてお尻をかけて、晴明に「急いで来い」と遣いをやると、晴明はすぐにやってきた。

<晴明の占うところによると>
「こういうことがあるが、どういうことか」とお尋ねになったところ、晴明がしばらく占って言うには、「これは、君を呪い申し上げるものを道に埋めてあります。もしこれを越えていたら、不吉なことになっていたでしょう。犬は神通力があるので、告げてくれたのです。」と言ったので、殿が「それではそれはどこに埋めてあるのか。見つけ出せ」というと、晴明は「簡単なことです」と申し上げてしばらく占って、「ここにございます。」というところを掘らせてみると、土を五尺ほど掘ったところで、はたして物が見つかった。土器を二つあわせて、黄色のこよりで十文字にからげてある。開いてみると、中には何もない。辰砂で一文字を土器の底に書いてあるだけである。「この呪法は、晴明のほかに知っているものは有りません。もしかしたら、道摩法師がしたのではないでしょうか。問い質してみましょう」と言って、懐から紙を取り出し、鳥の形に引き結んで呪文を唱えかけて空へ投げ上げると、たちまち白鷺になって南に向かって飛んでいった。「この鳥の落ち着くところを見て来い」と言って召使を走らせると、六条坊門万里小路の辺りの、両開きの戸のある古びた家に落ちるように入った。すぐに、その家主の老法師がいたのを縛り上げて連れてきた。呪詛の理由を聞かれると、「堀河左大臣顕光公の依頼を受けてしました。」という。「この上は流罪にするべきだけれども、道摩の罪ではない」といって、「今後、このようなことをしてはならない」といって本国播磨へ追放した。
この顕光公は死後に怨霊となって御堂殿の辺りへ祟りをなされた。悪霊左府と呼ばれたとか。御堂殿は、この犬をより一層可愛がられたという。、




<参考文献>
『新編 日本古典文学全集50「宇治拾遺物語」』(小学館)


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