
updata 2000.11.26
北条九代記 巻第二
太輔房源性、異僧にあう付けたり算術の奇特付けたり安倍晴明の奇特
<安倍晴明の算術>
昔、安倍晴明は天文の博士として算術に優れていた。ある時宮中に参内したが、庚申の夜なので、若い殿上人が大勢参集なさって、夜を明かされるためにいろいろと御遊びごとをされた。晴明を召し出され、「何か面白い事をして見せよ」と帝の仰せごとがあった。晴明は「それでは今夜の興を盛り上げ、人々を笑わせ申し上げましょう。決してお悔やみなさりませんね」と申し上げたので、「算術で人を笑わせるなどということは、どんなに逆立ちしてもできるはずはなかろう。もし仕損じた場合にはふるまい物を出せ」とのお言葉である。晴明は「かしこまりました」と答えて、算木を取り出して、それを一同の前にさらさらと置き並べたところ、目に入る物は何もないのだが、なんとなく座中の一同おかしくなって、盛んに笑い出される。笑いを止めようとするけれども止める事ができない。わけもなく笑いがこみ上げてきて、顎のはずれるほどの大声で笑い、腹を抱えて、最後には言葉も出ないほどで、腹筋がよじれて切れるかと思われるほどになって笑い転げたが、それでもどんどんおかしくなってしまった。一同は涙を流してもうたくさんだと手を合わせて晴明に頼み込まれる。「それではもう笑うのに飽きられたのでしょう。すぐにおとめ申しましょう」といって、算木を取り除いたところ、今までのおかしさがすっかりさめて、何事もなかったかのように元通りになった。これにはみなびっくりして、驚嘆されたとか言うことである。
<この前についている話の解説>
算法の不思議な術については、こう言う話が少なくない。あの源性はわずかにものの計算術に通じ、田畑の広い、狭いを知ることができることで慢心して、自賛した。その浅薄な知恵と算術を諌めて、あのような不思議な現象を出現させた松島の僧というのは、一体何物であったのか。狐の妖怪がしでかしたことなのか、天狗の仕業か、再度将軍家はお探しになったが、その僧の行方を知る人はいなかった。
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