updata 1998.4.2

今昔物語集 巻第二十四
 播磨国陰陽師智徳法師語第十九
(播磨の国の陰陽師、智徳法師のこと第十九)


<智徳法師が、海賊船を引き寄せる。>
今となってはもう昔のことになるが、播磨国に法師ではあるが陰陽師のようなことをするものがいた。名前を智徳と言った。長年その国にいて陰陽道に携わっていたが、その法師は、ただ者ではなかった。

ある日、○○国から多くの荷物を積んで上京してきた船があったが、明石港の沖で海賊に襲われた。船のものをみんな奪い取られ、何人かは殺されてしまった。海賊船は去っていった。船の主と、下人が一人か二人だけ海に飛び込んで助かった。
泳ぎ着き、陸に上がって泣いていると、彼の智徳が杖をついてやってきて、
「泣いているのは、何処の方か?」
と尋ねた。
船主は
「国から京へ上ってきたのですが、ここの沖で昨日、海賊に会って船の積み荷を全て奪われ、人も殺されてしまったのです。辛うじて命だけは助かったのですが。」
と言った。
それを聞いて智徳は、
「大変お気の毒なことだ。そいつを絡め取って引き寄せてやろう。」 という。船主は
「口先だけの事だろうよ。」
と思ったものの、
「そうしてもらえたら、どんなに嬉しいことでしょうか。」
と、泣く泣く言った。
智徳は
「それは昨日のいつのことだったのか?」
と聞くので、船主は
「これこれの時です。」
と答えた。

すると智徳は小船に乗って、船主を同行させてその沖に出て行った。その辺りに船を浮かべ、海の上に何か書いて、そこに向かって呪文を唱えた。陸に帰ってから、あたかも目の前にいる者を縛り上げるかのような仕種をした。それからその道の人を雇って、四、五日監視させた。
船の荷を奪われてから7日目の○時頃、何処からともなく船が漂ってきた。大勢の、武器を携えた者が乗っていた。こちらから船を出して漕ぎ寄せてみたけれども、なにかひどく酔っ払っているようで、逃げようともしなかった。それがなんとまぁ、あの海賊だったのである。奪われたものは失われず、そのままだったので、船の主の言うことに従って、こちらの船に皆運び直し、船主に返してやった。

その辺りの者たちが海賊どもを縛り上げようとしたが、智徳が身柄を貰い受け、海賊たちに
「これから、このような罪を犯してはいけない。本来なら命を絶つのが筋だが、それもまた罪になることであるからやめておこう。いいかい、この国には、このような老法師がいるのだぞ。」
と言い聞かせて、追い払った。
船主は、有り難い出港手配です、と感謝して出航して行った。
これは、ひとえに智徳が陰陽の術を使って海賊をうまく引き寄せたからである。
<晴明に式神を隠される>
このように、智徳はとても恐ろしい者であった。しかし、晴明に会って、式神を隠されてしまったという。とはいっても、それは式神を隠す方を知らなかったからであり、術が劣っていたから、とは限らない。
このような人物が播磨国にはいるのだよ、と語り伝えられている。
<参考文献>
『日本古典文学全集23「今昔物語集 三」』(小学館)


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