
updata 1998.5.16
宇治拾遺物語 巻第二
八 晴明、蔵人少将封ずる事
<晴明、式を見破る>
昔、晴明が陣(内裏の警護に当たる近衛府の官人の詰め所)に行ったとき、牛車の先駆けも華やかな殿上人が内裏に行くのを見た。見ると、蔵人の少将、まだ若く華やかな、誠に見め麗しい人であった。その日とが牛車から降り、内裏に向かうときに、その上を飛びすぎた烏が糞をしかけた。
晴明はさっとこれをみて、「あぁ、今を時めき、歳も若く、美しい人であるように思われるがなぁ。式に打たれたのだろうなぁ。あの烏は、式神だったよ。」と思った。
しかし、この少将には偶然ではなく、生きるべき前世からの宿縁が有ったのであろうか、晴明は気の毒に思えて来て少将のそばに歩み寄り、
「天皇のところへお向かいですか?生意気なことを言うようですが、どうして参内なさるのですか。あなたは、今夜を無事に過ごせないように見受けられますよ。不審にお思いかもしれませんが、私には見えるべくしてみえるのです私に任せてください。できる限りの事をしてみましょう。」
と言って、少将の載っていた車に乗ったところ、少将はわなわなと震えながら、
「ひどいことです。もしそれが本当なら、どうか私を助けてください。」
と言って、同じ車に乗って少将の自宅へと向かった。
<祈祷をする>
申の刻の頃であったので、このように退出したりしているうちに、日が暮れてしまった。晴明は少将をじっと抱いて、身固め(護身の方術)をし、また、何事かぶつぶつと一晩中眠りもせず、声も絶やさず、真言を読み聞かせて加持・祈祷をし続けた。
秋の夜長に念入りに加持祈祷したところ、明け方に戸をはたはたと叩くものがいる。
「さぁ、人を出して聞かせなさい。」
と言って聞かせた。
<真相が明らかになる>
この少将の相婿(妻の姉妹の夫)で、蔵人の五位の者がいて、少将とともに、同じ家のあちらとこちらに住まわされていた。
この女の家では、この少将のことをよい婿であるとして、大切にお世話していたが、もう一人の婿である五位を、とりわけ見くびっていた。そこで五位はこれを妬み、陰陽師を仲間に引き入れ、式を使ったのであった。
それゆえ、その少将は死ぬはずであったのだが、晴明が見つけ、一晩中祈ったので、その、式を打った陰陽師のところから人がやって来て、
「正気を失っていたため、理由も無く、強い守護のある方に対して、仰せに背くまい、と思って式を打ちましたが、もはや式神は帰って来て、自分が唯今式に打たれ、死にます。酷いことを致しまして。」
と言ったのを聞き、晴明は、
「これをお聞きなさい。夕べ、私が御見つけしなかったならば、あなたの方がこの陰陽師のようになっていたことでしょうよ。」
と言って、その使いに人を付けて遣って様子を聞くと、
「陰陽師は、間もなく死にました」
ということである。
舅は、式を打たせた婿をすぐに追い出してしまったとか。
晴明に対しては、涙を流しながら喜んで、多くの謝礼をして、それでも感謝しきれないほどであった。
少将とは誰のことか覚えていないが、何でも大納言にまで昇進した、ということである。
<参考文献>
『新編 日本古典文学全集50「宇治拾遺物語」』(小学館)
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