
updata 1998.5.30
宇治拾遺物語 巻第十一
三 晴明を試みる僧の事
<老僧がやってくる>
昔、晴明の土御門の家に、ひどく老いぼれた老僧がやってきた。十歳ほどの童部を2人連れていた。
晴明が「あなたは、どういう方なのですか?」
と尋ねると、
「播磨の国のものでございます。陰陽師の術を習いたいと思っているのです。あなた様が、この道では格別優れていらっしゃるとお聞きしましたので、少々習いたいと思い、参ったのです。」
という。晴明が思うところでは、
「この法師は、賢い者であるようだ。私を試そうとしてやって来たのであろう。そんな者に馬鹿にされては、具合が悪いだろう。この法師を少し弄ってやろうじゃないか。」
そして、
「供の童部は式神を使ってきたものらしい。式神ならば、取り隠せ」
と心の中で念じ、袖の中で印を結んで、密かに呪を唱えた。
そんな事をしてから、晴明は法師に言う。曰く、
「早くお帰りなさい。後で良い日を選び、習いたいとおっしゃる事々を教えてさしあげましょう。」
法師は
「ああ、有り難い」
と、手を摺り、額に当てて、立ち去った。
<老僧、引き返してくる。>
「もう立ち去ってしまった頃だろう」と思っていると、法師は立ち止まり、しかるべき所々、車宿(貴族の邸内の、牛車の収納場所)などを覗きながら歩き、また晴明の前に寄ってきた。
「私のともである童が、二人ともいなくなってしまいました。それを返してもらって、帰りましょう。」
と法師がいう。
晴明は、
「あなたは、奇妙なことを言うお坊さんですね。晴明が何故、人の供であるものを取るというのです?」
「誠にあなた様、全くの道理でございます。しかしながら、ただただ、お許し下さい。」
と法師が詫びたので、晴明は
「よしよし。あなたが人を試みようとして、式神を使ってきたのが大した事ではあるが、けしからぬと思ったのだよ。このように試みるのは他の人に対しては、良いだろう。しかし、晴明に対しては、そんな事をしてはいけません。」
と言い、何やら物を唱えるようにしてからしばらくすると、外の方から、童が二人とも走り入ってきて、法師の前に出てきた。
その時、法師が言うことには
「確かに、試み申し上げたのです。式神は、使うことは簡単です。しかし、人が使っている式神を隠すことは、全く、不可能なことです。今後は、ひたすら弟子になってお仕えします」と言って懐から、名簿(主人として使える相手に渡した名札で、姓名や官位などが書いてある。服従を誓う証拠として提出する)を引き出して、晴明に渡した。
類話(又は、関連話)
○今昔物語集 巻第二十四 安倍晴明随忠行習道語第十六
(安倍晴明、忠行に随いて道を習うこと第十六)
○☆今昔物語集 巻第二十四 播磨国陰陽師智徳法師語第十九
(播磨の国の陰陽師、智徳法師のこと第十九)
<参考文献>
『新編 日本古典文学全集50「宇治拾遺物語」』(小学館)
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