慢性膵炎


跡見 裕(杏林大学医学部教授)

慢性膵炎は、長期間にわたって徐々に進行していきます。自覚症状のないまま、炎症が繰り返し起こると、膵臓は回復不能のダメージを受けてしまいます。アルコールを長期間、大量に飲み続けている人は要注意!

1.どういう病気か:炎症が長期間、繰り返され膵臓の繊維化、石灰化が起こる。


 慢性膵炎の場合、長期間にわたって炎症が繰り返し起こって、膵臓の正常な細胞が徐々に破壊されていきます。炎症が続く間、繊維化や石灰化が起こって、膵臓が固くなります。このように破壊された膵臓の組織は、元に戻りません。
 
また、繊維化に伴ってカルシウムが沈着して、結石ができる膵石症になることもあります。
 
膵臓には、トリプシン、アミラーゼ、リパーゼなどの消化酵素を含んだ膵液を分泌する外分泌作用と、インスリンやグルカゴンなど血糖値を調節するホルモンを分泌する内分泌作用の二つの重要な働きがあります。
 
慢性膵炎で、膵臓の組織が破壊されるに従って、外分泌と内分泌の両方の作用の機能がだんだんと低下し、全身に大きな影響を与えることになります。

2.慢性膵炎の原因


1)アルコール
  
慢性膵炎の発症には、アルコールの大量摂取が深く関与してことがわかっています。

特に常習的大量飲酒が慢性膵炎の原因と言われており、昔は、一升酒を毎日、10年以上飲むような常習的大量飲酒者が慢性膵炎になるとされていました。実際、慢性膵炎は、大量飲酒を始めてから10年以上という、30-50歳代の働き盛りの男性に多くみられます。もちろん、酒を飲む人がすべて慢性膵炎になると言うわけではありません。
 
大量飲酒によって慢性膵炎が起こるメカニズムは、まだ完全には解明されていませんが、次のような理由があげられています。

・アルコール自体が膵臓の細胞に障害を与える。:エタノール(エチル・エタノール)、またはその代謝産物が直接膵臓の細胞を破壊します。

・アルコールによって膵液の性質が変わる。:膵液中の蛋白の粘性が高まり、膵液の流れが悪くなります。
 
このように慢性膵炎の発症は、アルコールとの関係が深いのですが、アルコール単独で慢性膵炎が起こると言うより、食生活などのほかの要因が加わって発症すると考えられています。たとえば、蛋白質や脂肪の多い食べ物を食べることによって、膵液の分泌が多くなりすぎて起こると言うことが要因の一つです。
 
2)その他
  
その他に、特発性と言われる原因不明のものがあります。また、胆石症から引き起こされるもの(軽症が多い)、若い女性に多い家族性の膵石症によるものがありますが、これらが起こる頻度はそれほど高くありません。

慢性膵炎の症状:腹部の鈍痛、激痛、背部痛などが繰り返し起こる


・腹痛が繰り返し起こる
 
慢性膵炎の場合も、急性膵炎同様、腹痛が代表的な症状をなります。急性膵炎の腹痛は、激痛が多いのですが、慢性膵炎では、鈍痛が特徴的です。また、多くの場合背中の痛みを伴います。
 
耐え難い痛みのために、痛み止めを大量にのんで薬物依存を起こしたり、痛みを忘れようとアルコールを飲んでアルコール依存を起こすこともあります。
 
ところが、慢性膵炎が進み、膵臓の病変が膵臓全体に及んで、膵組織が荒廃し、膵液をつくらなくなると、かえって痛みを感じることはなくなります。

・吐き気
 
慢性膵炎でも、急性膵炎を同じように吐き気が起こることがあります。

・糖尿病の症状
 
慢性膵炎では、膵臓の組織全体が障害を受けるため、インスリン(血糖値を下げるホルモン)などを分泌するランゲルハンス島の部分も障害を受け、インスリンが十分に分泌されなくなり、糖尿病の症状が起こってきます。
 
また、インスリンとともに、血糖値を上げるグルカゴンも分泌不足になるので血糖のコントロールが難しく、低血糖による意識の混濁や昏睡が起こることもあります。

・ショック症状
 
まれですが、慢性膵炎でも症状が激しく現れたとき(急性期)には、激しい痛みが起きたり、重症急性膵炎と同じように、ショック症状を起こし、血圧低下や腎不全、心不全など多臓器不全を起こすこともあります。

4.検査:膵臓の様子を調べる画像診断が中心


 血液検査・尿検査:血液検査では、膵液に含まれるアミラーゼやリパーゼなど酵素の値を調べます。膵臓に炎症が起こると、一般にこれらの値が上がります。しかし、慢性膵炎の場合、必ずしもこれらの値が上昇するとは限りませんので、この検査だけでは慢性膵炎の確定診断はできません。
 
また尿検査では、膵液に含まれている消化酵素が分解する物質を飲んで、その物質が尿にでた分量を調べます。この検査で、膵臓の機能の状態がおおよそわかります。

画像検査:画像診断では、超音波検査、CTなどで、膵臓の状態を調べます。
 
これらの検査では、膵臓の形や、膵石の有無、膵嚢胞などを、患者さんに肉体的な負担をかけずに調べることができます。
 
内視鏡的胆道膵管造影(ERCP)は、膵管に造影剤を送り込んで、膵管の形をはっきりとみることができ、膵管が狭くなっているかどうかなど、膵管の変化を調べることができます。口からいれた内視鏡を食道、胃を経て十二指腸乳頭部にまで送り込むという高度の技術が必要なので、熟練した専門家が行うことになっています。
 
最近、行われ始めた画像診断にMRCP(磁気共鳴胆道膵管造影)があります。これは、MRI(磁気共鳴装置)の画像を三次元的に再構築したもので、患者さんの肉体的な負担も少なく、内視鏡的胆道膵管造影と同じ様な画像を得ることが可能です、将来的には、この検査が普及するものと考えられています。

5.治療:自己管理を徹底し膵臓の機能を守る


 慢性膵炎では、膵臓の組織が回復不可能な変化を起こすので、治療は進行を抑えることが基本となります。

1)禁酒
 アルコール性の慢性膵炎の場合は、何よりも禁酒が必要です。急性膵炎の予防の場合は飲み過ぎないことが基本でしたが、慢性膵炎では節酒ではなく、絶対的な禁酒が求められます。禁酒が守れるかどうかが、治療の将来を決定すると言うほど、重要な要素となります。

2)膵石を取り除く
 膵石は、取り除くのが基本です。従来は手術で取り除きましたが、最近は体外から衝撃波を当てて、膵石を細かく砕いて体外から流してしまう体外衝撃波治療も行われています。

3)合併症の治療
 また、膵嚢胞も治療を必要とすることがよくあります。従来は開腹手術で取り除きましたが、最近は内視鏡を使った治療や腹腔鏡を使っての治療も開発されています。膵液の流れが悪いために膵管が拡張して痛みが続くときは、膵管と腸をつなぐ手術も行われます。
 
膵炎が原因で糖尿病になっている場合は、インスリンの分泌不足が起こっているので、インスリンを補充して、糖尿病の治療を行います。

4)薬物療法
 痛みを和らげる、膵液の分泌を抑える、消化酵素を補うなど、それざれの症状に対する総合的な薬物治療が行われます。

5)食事療法
 アルコール性慢性膵炎の場合でも、アルコール以外の食事の要因が関与していることもあるので、食事療法も重要です。過食を控え、脂肪の摂取を制限します。また、刺激物などの膵液の分泌を促進するものを避けます。

6)日常生活の注意
 慢性膵炎で傷害された膵臓の組織は、再生されません。一度失った機能は取り戻せないので、これ以上、膵臓の機能を落とさないことがポイントとなります。そのためには、規則正しい日常生活を送るなど、きちんと自己管理を行うことが大切です。いかに自己管理を成功させるかが、慢性膵炎とつきあっていくポイントといえるでしょう。

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