第6章:生き方と遺伝子


多様性と寛容性について


種に限っても、現在、確認されているものだけでも地球上に約130万種もの生物が存在します。こうした多様な生物も、約35億年前に誕生した1種類、もしくは数種類のごく原始的な生命体から進化してきたものです。

もちろん、その間には多くの種が誕生したり滅亡したりしています。これまで地球上に現れたすべての種のうち99%は絶滅したといわれています。それを考えると、多様性という言葉がぴったりきます。

多様性は、遺伝子自身にもあります。ひとりの人間が誕生するのは、それこそ天文学的な確率なのです。そして、一匹の精子と一個の卵子が結合した遺伝子の組み合わせも、どれ一つとして同じものはありません。

この多様性こそが、生命の神秘といっていいでしょう。ドーキンスの利己的遺伝子の考え方を借りれば、そうした多様性も遺伝子の生き残り戦略だということになるかもしれませんが、それも間違いではないでしょう。

ともかく、多様性があるということは、人間に当てはめれば一人一人の生き方は違って当然なのです。

一人一人が、その個性に合った生き方をするのが一番幸せなのではないでしょうか。ですから、個性や特性を伸ばすような教育をしていかなければ、生物の素晴らしさである多様性が失われ、環境の変化に耐えられずに滅びてしまう恐れがあるといっても、言い過ぎではないと思います。



教育はどこまで遺伝子を越えられるか


遺伝子の機能は、個体の生命の維持と、その子孫をつくることです。具体的には、さまざまなタンパク質をつくることで、それを実行しています。

しかし、動物は遺伝子だけでなく、脳も持っています。脳の働きのおかげで、周囲の環境の変化に対応できたり、自分の生物学的能力の衰えを、ある程度カバーすることができるのです。

脳と遺伝子は、個体の生存のために異なった方法で、お互いに協力しているといえます。このように、動物は遺伝子の命令だけで行動が決定されるロボットではありません。脳があるために、経験など後天的に得られた情報を生かす、つまり学ぶ能力があります。

遺伝子は、親から受け継いだ先天的に組み込まれたプログラムですが、脳は後天的なプログラムといえます。人間には、この学ぶという能力が、
他の動物と比べてきわめて大きいという、きわだった特徴があります。

言い換えれば、人は遺伝子のおかげで生きているのですが、その束縛から自由になれる能力もあるのです。

では、脳はどのような働きをするのでしょうか。人間の脳は大きく分けて三つの部分から構成されています。脳幹と大脳辺縁系、そして大脳皮質です。簡単にいえば、脳幹の機能は生命維持、大脳辺縁系は本能、大脳皮質、特に新皮質は理性を受け持っています。

脳幹は呼吸、体温調節などの生命にとって基本的な機能を受け持ち、この部分が機能停止すると生きることはできなくなります。大脳辺縁系は異性を求める性欲、愛情、恐怖、恐れ、攻撃、記憶など、主に本能と情動行動をつかさどります。

大脳皮質は、人で最も発達した部分です。ここは、高度の運動機能、視覚などのほかに言語、さらには判断や創造などという、非常に高度な機能を営んでいます。

大脳皮質は、高度に人間的な機能を発揮する脳の部分です。大脳の表面近くに分布するので皮質というのです。このことは、人の進化の過程で発達した部分であることを示しています。

計画、判断、創造など非常に抽象的な高度の機能が、ここで生まれます。この大脳皮質のおかげで、人間は単純な遺伝子プログラムでは対応できないような複雑な未知の事態に備えることができます。

ここで一番大切なことは、自分の意志で未知に対応するということです。極端にいえば、それまでの経験や知識が足りない、全く新しい状況を生きていく能力がこの大脳皮質にあるということです。

この大脳皮質は、教育の効果が非常に大きい部分だといえます。狭い意味での教育だけでなく、文化や宗教、さらには風土など微妙な環境の影響も大きいでしょう。

これからの教育では、せっかくの大脳皮質の能力を生かすような、はつらつとしたチャレンジ精神に富んだ教育をしてほしいものです。

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