DNA人類進化学


宝来 聰


岩波科学ライブラリー52(岩波新書)


ヒトの体は、およそ60兆個の細胞から構成されているが、その細胞1個1個に核があり、その核の中に両親から由来する二組の染色体が存在している。ヒトの場合、染色体は二三対四六本あり、そのうち一対は性染色体である。
 
個々の染色体はDNA(デオキシリボ核酸)とヒストンなどのタンパク質を主成分とした巨大な構造体である。DNAには、アデニン(A)、グワニン(G)、シトシン(C)、チミン(T)という四種類の塩基配列によって遺伝情報が書かれており、ヒトの染色体上のDNAには約三〇億個の塩基が配列されている。

この中には、受精して発生する過程から日常生きていく過程で必要な、ほとんどすべての遺伝情報が盛り込まれている。そしてこのDNAからRNA(リボ核酸)に読みとられ、さらにこのRNAをもとにタンパク質が生産されることによって発現する。
 
このようにDNAは、我々の生存に不可欠のものであるが、少しずつ変化しながら親から子に連綿として伝えられてきたものであることから、進化の歴史が刻まれている分子化石と見ることもできる。

地球上のすべての生物が三五億年にわたる進化の産物であることは明らかであるが、ではどうすればDNAで進化がわかるのであろうか。それは現在生きている生物のDNAの塩基配列を知り、比べることによって可能となる。


ミトコンドリアDNA


 DNAは核の染色体以外にも存在する。細胞質内にあるミトコンドリアというエネルギー産生や呼吸代謝の役目を持つ特殊な小器官の中にもDNAが存在し、これをミトコンドリアDNAと呼んでいる。

 ミトコンドリアの機能のかなりの部分は、核DNAの遺伝情報に司られているが、このミトコンドリアDNAにも、二個のリボソーム(rRNA=タンパク質生産工場であるリボソームを形作るRNA)と、二二個の転移RNA(tRNA=タンパク質の材料であるアミノ酸を運ぶRNA)、そしてわずか一三個のタンパク質を作る情報となる遺伝子である。
 
 ヒトのミトコンドリアDNAは、あらゆる生物種を通じてその全塩基配列が解読された最初の例であるが、その結果、ミトコンドリアDNAは一万六五六九塩基で構成されるたコンパクトな環状のDNAで、全部で三七個の遺伝子が存在することが明らかとなった。 

ミトコンドリアDNAは、全体の約93%は遺伝子を指定している領域で、むだな塩基配列はわずか7%しかなく、このことが核DNAとの大きな違いである。

 このミトコンドリアDNAは、進化の研究をするのに有効ないくつかの特徴を持っている。

第一の特徴は、ミトコンドリアDNAは核のDNAに比べて塩基配列の起こる速度が五倍から一〇倍速いことが上げられる。これは生物進化を研究する上で強力な武器となる。

第二の特徴は、母性遺伝である。ミトコンドリアDNAは、母親のものだけが子供に伝わり、父親のミトコンドリアDNAは次世代にはまったく関与しないと言う、核DNAとは異なった遺伝様式をとるのである。

第三の特徴はミトコンドリアDNAの数の多さである。一個の細胞にミトコンドリアは数百個含まれており、ミトコンドリア一個にミトコンドリアDNAが五,六個有るため、細胞当たりでは千個以上も存在することになる。そのため、組織から大量に収集することができ、分析しやすくなっている。



現代人の起源


 現代人の起源の地はアフリカであり、その時期はおおよそ十四万年前である。現代人の祖先集団は、しばらくはアフリカに留まりその数を増やしていった。その後に、そのうちの一部の系統が二度目の脱アフリカーホモ・エレクタスが100万年前に最初に試みて以来ーを試みた。

 アフリカ大陸を北上した集団は中東にまで達し、さらに北に向かった集団は、今のヨーロッパ人の祖先たちとなった。

 別の集団は中東からさらに東に展開してユーラシア大陸を横断していった。移動経路には南回りの海沿いルートもあったであろうし、ヒマラヤ山脈の北側を通ったルートもあったであろう。アジアに到達した集団にはそのまま留まったものもいたし、さらにさまざまな経路を通って拡散したものと考えられる。

 たとえばシベリアを経てベーリング海峡を渡り、アメリカ大陸に至った系統がいたし、別の集団はあじあを南下してオセアニアにまで至ったのである。


日本人の起源


本土日本人は、縄文人という日本の先住民の子孫と考えられるアイヌや琉球人と、ある程度遺伝的に近い関係にあるものの、本土日本人における遺伝子プールの大部分は、弥生時代以後のアジア大陸からの渡来人に由来するものであった。

さらに、アイヌと琉球人は互いにある程度の遺伝的近縁性はあるが、弥生期の移住が始まったころには、別々の集団として存在したと考えられる。


戻る


このホームページのホストは です。 無料ホームページをどうぞ!