10章 クローニングが開く世界


 今あなたが読み終わった章の中心テーマは、クローニングの技術を使って、すでに生きている人間の一卵性双生児をつくるということだった。この印象が強いために、人々はクローニングを恐れ、政治家はすべての技術使用を禁止する法律をつくろうとする。だが、クローニングとほかの生殖技術を組み合わせれば、双子を作るのではなく、広範囲な生物医学的な問題を解決できるということは、あまり伝えられていない。

 クローニングの真価は、それ自体にできることではなく、生殖技術の別の方面に寄与することにあると考える科学者は多い。特に二つの研究分野にクローニングが組み込まれれば、得るところは大きい。その分野とは、組織再生と遺伝子工学である。



組織再生


 臓器や組織が癌に侵されたり弱ったりしている場合に問題となるのは、傷ついた組織を新たに再生させる未分化の細胞を、体内に貯蔵することができないと言うことである。子供であれ大人であれ、体内の内臓や組織は、分化の最終段階に達していて、別の器官に変わることはない。皮膚細胞が骨髄細胞に変わることはないし、血球が肝細胞に変わることもない。

 ところが、初期胚の細胞には、どんなタイプの細胞にも変わる能力があり、体内のどの組織や臓器の細胞にもなりうる。胚がどのようにして特定の組織に変わっていくのかが解明されれば、クローンでできた胚を強制的に特定の組織に育てることができるようになり、新たな人間をつくる必要はなくなるかもしれない。実際、科学者たちはクローニングが現実になる20年以上前から、この問題に取り組んできた。


 

遺伝子工学


 遺伝子工学とは、特定の遺伝子を組み換えたり、胚に新たな遺伝物質を加えたりすることにより、生まれてくる子供に、ほかの方法では持つことのできない性質を現れるようにすることである。クローニング自体は遺伝子工学ではない。

 1980年以降遺伝子工学は、マウス、ウシ、ヒツジ、ブタといった動物で成功している。だが、あまりにも効率が悪いという理由で、人間には適用されていない。遺伝子を胚に付加するという一番初歩的な技術でも、成功率はせいぜい50%で、生まれてくる動物に病気の突然変異遺伝子が含まれる危険性も5%ある。

 それだけ成功率が低い実験に、かけがえのないーやがて人間になるはずのー胚の遺伝子を使うことは許されない。だがクローニングによって、すべてが変わろうとしている。いまや一個の胚から複数の細胞を発生させ、そのうちの一つを遺伝子工学に利用することができる。現在のプロトコルでも、目的通りの操作が加えられた細胞を識別して取り出すことができる。選別された細胞はそれぞれが、遺伝子上の安全性を確認するために十分な材料を提供した細胞のクローンを増殖する。そこではじめて、その中の一個に核移植をおこなって新しい胚を作れば、それが特別な遺伝子を付加された一人の人間へと成長する。

 ドリーの誕生から5ヶ月とたたない1997年7月25日、スコットランドの同じチームの科学者たちが、まさにこのプロトコルを成功させ、異種である人間の遺伝子を組み込んだヒツジが誕生したことを発表した。

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