5章 セックスによらず生まれる子供


有性生殖が始まって6億年が経った現在、性行為は子孫を残すために不可欠な事ではなくなってしまった。次の新聞記事を考えてみよう。1987年『ワシントン・ポスト』に掲載されたものである。

最近、監督協会の司祭であるレスリー・ノースラップが、人工授精によってシングルマザーとなり世間の注目を集めた。人工授精技術は婚姻外のセックスを禁じる協会の掟に触れないと彼女は主張し、主教もその立場を支持している。

「この子を生むに当たって、非合法的なこと、不道徳なことは何もしていない。」ノースラップは言う。「何の罪を犯したというのでしょうか。姦淫ですか。私も相手も、結婚してません。婚外の性行為ですか。性行為は一回もありませんでした。」

セックスと生殖が切り離されたことで、何か不道徳なことが起こっているのだろうか。そう考える人もいるだろう。
女性が生殖に関するすべてをコントロールする力を持つのではないかと、にわかに思い始めた人もいるようだ。

現在のところ、男性が精子を提供しなければならないが、人間のクローンが可能になれば、男性はまったく必要なくなる。男性が除外されることは、神もまたその過程から除外されることになるのだろうか。生命の創造者となりえるのは「女性」だけなのであろうか。

現在、セックスによらず生まれてくる子供は、先進国で生まれる子供全体のごく一部だけである。だが、このような方法によって生まれる子供の数は、年毎に増えていくだろう。そしてクローニング、受精卵選別、遺伝子工学といった技術が広まり、百年、千年と経ったときに、財力のある人々にとってセックスをしないで子供を作るのが常識となっているかもしれない。

人工授精は別にして、これから述べる生殖技術の応用は、すべて体外受精の研究で確立された基礎の上に築かれている。



体外受精の現状

 ひとたびイギリスの病院で成功すると、体外受精の実施は急増した。アメリカのクリニックに対してはじめて調査が行われた。1985年には、337人の誕生が報告されている。1990年になると、その数は2345人に跳ね上がり、1993年には6870人となる。
 
1994年までに、体外受精によって生まれた子供の総数は約15万と推定され、そのほとんどが、現在4歳未満である。体外受精がこの調子で普及すれば、2005年には、アメリカだけでも年間50万以上、ほかの国々でも数百万人の体外受精ベビーが生まれると予想される。
 
なぜ多くの人が有り金をはたいてまで、体外受精を希望するのか。その答えは「自分の子供」を持ちたいという強い欲求にある。



子供がほしいという願い

 子供を産んで育てたいという欲求は驚くほど強い本能的な衝動であり、この感情を経験した人は、それがどこからくるのか説明できずに困惑する。

だが、ドブジャンスキーの「進化という視点がなければ、生物学など何の意味も持たない」という言葉を知っていれば、それがどこからくるのかは、すぐにわかるはずだ。進化の指導原理から直接現れたのである。すなわち、個々の人間がよりうまく自分を再生するようにプログラムされた遺伝子が、しだいに頻度を増して一つの世代から次の世代へと受け継がれ、やがてすべての個体に行き渡ったのである。
 
もちろん、自分の意思で子供を持たない人がいることは、私たちの多くが認めている。生物学的にこれをどう説明したらいいのだろうか。それは人間だけが持っている、人間特有の性質によって説明することができる。

すべての動物の中で、私たちだけが知的能力を持ち、遺伝子が規定する自然の行為を理解すると同時に、それに逆らうこともできるようになった。そして、ある文化的、知的環境においては、自分自身や他人の欲求、人生のほかの目的が優先され、生殖の欲求が退けられてしまうのである。
 
だが、大多数の人間にとっては、ほかのどんな望みに勝るほど、子供を持ちたいという欲求は強い。そして、その欲求が満たされないときに感じる苦痛や悲しみは、愛するものを失ったときに経験する感情に匹敵する。残念なことに、結婚したカップルの9〜15%に不妊が見られる。子供が欲しいのにできないカップルは、アメリカだけでも200万組以上存在する。

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