9章 人間の接ぎ木



「ヒツジから人間へ」は可能か

 ヒトのクローンが実現する見込みは、どのくらいあるのだろうか。ヒツジで成功した技術は、私たちの種に応用できるものなのだろうか。できるとすれば、いつごろ現実のものとなるのだろうか。

 これらの質問に答えるためには、種によって多少の差はあるものの、哺乳類の胚は、ほぼ同じ様な初期発達をするということを理解しておかねばならない。クローニングの成功の鍵が、哺乳類の相違よりも類似にあるとすれば、ヒトのクローンも可能だと考えられる。さまざまな哺乳類を使った実験を通して、此の仮定が実証されるだろう。

 現在の核移植の技術水準を考えれば、すでに結果は出ている。ドリーが発表される前にも、多くの研究所の科学者たちが、核移植された胚から、ウシ、ブタ、ヤギ、ウサギ、そしてマウスのクローンを作ることに成功している。

ドリーの発表から一週間たたないうちに、ビーヴァートンにあるオレゴン霊長類研究所で、はじめて霊長類(アカゲザル)の核移植が成功したと報道された。現在本格的に研究されているどの哺乳類に対しても核移植がうまくいくならば、人間の細胞の核移植もうまくいくはずである。特に、胚の発達という点から見れば、ヒトはサルが洗練されたものに過ぎないのだから、サルで成功したことによって決定的となったと言ってもいいだろう。

 ただし、現時点では、成獣のドナー細胞の核移植によって生まれた動物はドリーだけである。ドナー細胞が成人のものではうまくいかないという根拠はないが、ほかの種(おもにサル)での実験がすべて完了するまでは、確かなことはいえない。だが、それも数年のうちに必ず実施されるだろう。

 人間の場合、問題となるのは成功するかどうかではなく、安全かどうかである。医療道徳の基本原則は、利益よりも害の方が大きいと思われる技術を、人間に対して行うことを禁じている。クローニングもこの原則によって、先天異常の危険性が自然分娩の場合と同じ程度であることがはっきりするまでは、実行することはできない。
 
自分のクローンや子供のクローンを作りたいという人々にとって、政治上の規則や規制は何の妨げにもならない。市場がー政府や社会ではなくークローニングをコントロールするのである。もしクローニングがある場所で禁止されたとしても、どこかほかの場所でーおそらく税収入を見込んだ開発途上の島国などーできるようになるだろう。実際、ドリーが発表されて、二週間たたないうちに、投資家のグループがバハマを拠点に、ヒトのクローンづくりを20万ドルで請け負うクロネイドという会社をつくってしまった。

 このベンチャー企業が成功するかどうかに関わらず、あとに続くものが必ず出てくるだろう。結局、国境はカップルや個人のクローニングの実施を妨げる役にはたたないだろう。
 

戻る


このホームページのホストは です。 無料ホームページをどうぞ!