プロローグ


来るべき世界をのぞいてみたら


1996年3月7日付けの「ネイチャー」に、たった一個のヒツジの受精卵から無限のクローンを作り出す方法を詳しく書いた記事が載り、それが遺伝子工学の方法にいっそうの進展をもたらすことを示唆していた。この衝撃的な実験の派生効果について編集者がやっと理解したのは、それから1週間後だった。

1996年3月14日発行の同誌に載った、熱のこもった論説記事の一部を引用すると、

「分子遺伝学が発達すれば、将来、われわれ人間の種の性質を変えることができるという事実を直視しなければならなくなるが、その事実はほとんど知られていないと思われる。現在の科学知識では細かいことまで理解できないだろうが、どんな可能性があるかははっきりしているはずだ。最後には、一定の社会的、倫理的な価値の中で生きてきた人間すべてを巻き込む論争を起こすことになるだろう。何が問題となるのかを決めるのは、科学に関わる一部の集団でなく、人類全体である」

問題を決めるのは科学者ではないというのは正しい。だがほかに多くのことについても社会的なコンセンサスが得られないのに、「人類全体」で結論を出せると考えるのは間違っている。何が問題であるか決めるのは当事者であり子供の権利を守る立場にある個人やカップルである。

このあと私は、科学技術が発達するとなぜ、これまで疑うことのなかった親子や生命自体の意味といった概念を、考えなおさなくなるのか説明していく。

特に生殖技術の進歩があらゆる形態の個人やカップルにもたらす、以前には想像できなかった選択肢を紹介したい。そして、人々が生殖技術を使って、人類の行く末をコントロールする未来の図をいくつか描いてみる。

その間、生殖遺伝学の技術の実験に反対する意見について、こまかく検討をおこなう。反対の意見も一部について、意識的なあるいは無意識的に「神の領域」に踏み込むことへの恐怖があると、私は考えている。だが、いずれにせよ生殖遺伝技術の使用は避けられないと言うのが私の意見である。それをコントロールするのは政府でもないし、開発した科学者でもない。

それは疑うことのない事実だ。いいことも悪いことも含めて、新しい時代はそこまで来ている。個人の思惑に関わらず、世界中の市場がそれを押し進めることになるだろう。

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