第7章:シングルヒット


1990年夏、オタワで開かれた会議で、ウィスコンシン大学のリチャード・ピーターソンらの薬学部チームは、妊娠中のラットにダイオキシンを投与し、生まれたオスの発育にどんな影響が出るかを観察した。発育上のポイントともいえる時期にダイオキシンに暴露していたラットの生殖系には、異常が現れた。

特に意外だったのは、ダイオキシンは少量でもひどく有害であるという事実だった。投与したダイオキシンはごく少量で、しかも反復投与はされていなかった。しかし、妊娠中の重要な時期に、ごく微量のダイオキシンを投与されたラットから生まれたオスには、有害な影響が長期にわたって現れたのである。これはまさにシングルヒットだった。

ダイオキシンの毒性は、砒素の数千倍に相当し、ダイオキシンを体重1キロ当たり10万分の1グラムしか投与されなくても、実験動物は死んでしまうのだ。

科学者には2,3,7,8-TVDD(テトラクロロジベンゾダイオキシン)として知られ、一般的には地球上で最も有害な化学物質といわれるダイオキシンは、意図的に作り出された化学物質ではない。これは、大半のホルモン攪乱物質とは異なる点だ。

火山や山火事から発生する場合を除けば、その大半は、現代のライフスタイルから偶然に生み落とされた汚染物質である。殺虫剤や木材用防腐剤に使われる塩素含有化学物質の製造、塩素による紙の漂白、プラスチックや紙の焼却、こうした過程すべてから、ダイオキシンは発生するのである。DDTやPCBと同じように、ダイオキシンも、体脂肪への残留性が高い合成物質だ。しかもダイオキシンは、そのほかの残留化学物質同様、大気、水、土壌、堆積物、食物などから広く検出されている。

1962年から1971年にかけて、米軍は、1900万ガロンを上回る合成除草剤を、ベトナムの地域に散布した。北ベトナムが潜伏していると目された熱帯雨林の枝葉を一掃するためである。

この作戦に投入された化学兵器の一つが、オレンジ剤だった。これは除草剤2,4-Dと2,4,5-Tとの混合物である。ちなみに2,4,5-Tは、その生成過程で発生するダイオキシンに汚染されやすい化学物質である。

ベトナム帰還兵とその家族には、癌から子供の身体障害にいたる疾病が現れた。オレンジ剤にダイオキシンが含まれていた事実を知った帰還兵は、疾病の原因が、ベトナム戦争中のこの化学物質に暴露したことにあると確信した。

その後、米国化学アカデミーの専門家グループの報告書によると、ダイオキシンに汚染された除草剤に暴露すると、三種類のがん、すなわち軟組織肉腫、非ホジキンリンパ腫およびホジキン病に罹患することを十分に裏付ける化学根拠があるとしている。

さらに、ダイオキシンには、精子数の減少や免疫系の抑制を誘発する性質があることが立証された。

最近の研究では、人体にはアリール炭化水素(Ah)と結びつくレセプターがあって、ダイオキシンを結合するという。いったんダイオキシンが、ヒトの細胞内にあるレセプターに入り込むと、細胞核にあるDNAと結びついて、遺伝子異常を促進してしまうという。

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