第8章:ここにも、そこにも、いたるところ


ホルモン作用撹乱物質の驚異が明るみに出るようになったのはおおむね、ふとした発見や意外な出来事が積み重なったためである。

ボストンのタフツ大学医学部のアナ・ソトー博士とカルロス・ソンネンシェイン博士は、たまたま使用していたコーニング社製のプラスチック製試験管からしみだしていたエストロゲン様物質に気づいた。

1989年末に、その物質は分析の結果、Pーノニルフェノールと判明した。P−ノニルフェノールは、アルキルフェノールと呼ばれる合成化学物質の一種で、ポリスチルとポリ塩化ビニル(PVC)に、酸化剤としてノニルフェノールを添加すると、安定した分化しにくいプラスチックになる。

食品加工包装業界では、アルキルフェノールを含むPVCが使用されていた。さらに工業用洗浄剤、殺虫剤、薬用化粧品などに使われている化学物質が、分解の過程でノニルフェノールを生成することも分かってきた。

さらに、同時代に、カリフォルニア州のスタンフォード大学医学部でも、プラスチック製の実験器具に、エストロゲン様物質の存在に気づいた。そこで見つかったのはポリスチレンでもノニルフェノールでもなかった。スタンフォード大学の研究チームが発見したエストロゲン類似物質は、ビスフェノールーAだった。

ホルモン作用撹乱物質が、プラスチックのような不活性物質にはからずも潜んでいるという事実は、これまでの暴露概念を覆し、ヒトが思いのほか多くのホルモン作用撹乱物質にさらされていることを示唆している。

さらにやっかいなことに、複数のホルモン作用撹乱物質が相まって作用するという証拠も挙がっているのだ。個々の化学物質はとるに足らない微量でも、まとまると実に強力な威力を発揮するのである。

この章ですでに取り上げてきた事例からは、内分泌系撹乱物質についての新たな事実が浮上してきた。ところがその結果、はからずも明らかになったのは、実に皮肉なことだが、これまで地球環境にさんざんまき散らされ、今や日常生活とは切っても切り離せないものとなっている合成化学物質について、人類は驚くほど無知であるという事実だった。

実際、こうしたホルモン作用撹乱物質をどのくらい摂取すれば、人体に有害な影響が生じるかは全く分かっていないのである。ただ確実にいえることは、出生前に暴露した場合には、ごく少量であっても非常に危険であるという事実だ。最近の研究によれば、少なくともダイオキシンの場合、人体暴露の状況は、憂慮すべき段階にきているらしい。

フレッド・ヴォン・サールが明らかにしたように、自由なエストロゲンは、0.1pptといった極微量であっても、胎児の発育を著しく阻害する危険性があるのだ。


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