どんな病気に遺伝子治療が行われてきたか?


正規の手続きを踏んで行われた遺伝子治療の第一号は、1990年にアメリカで行われたADA(アデノシンデアミナーゼ)欠損症の治療とされている。

アデノシンデアミナーゼは、免疫系で重要な働きをしている酵素で、これができないと重症の免疫不全を起こし、病原菌などに対する抵抗力が失われてします。そのため、患者は感染症などで幼くして命を落とすことになる。

この時の患者は4歳の少女で、患者のリンパ球を取り出して正常なADAの遺伝子を導入、それを培養して増殖させ、再び患者の体内に戻すという方法がとられた。

その後、昨年までに全世界で二千百例、現在までは二千五百例近い患者に遺伝子治療が実施されたと見られている。

東京大学医学部科学研究所の浅野茂教授によると、遺伝子治療の対象疾患は圧倒的に癌が多い。

「二千例の時点で、60%以上は末期癌が対象でした。その比率は更に高まる傾向にあり、去年一年間で承認された遺伝子治療のプロトコル(実験実施計画)のうち、90%が癌が占めています。ADA欠損症のような単一遺伝子病は、もともとの患者が非常に少ないので、遺伝子治療の件数も少ないのです。」と言う。

癌が遺伝子治療の対象として多く取り上げられているのは、患者が多いことと、現在の治療法だけでは、つらいだけでなかなか助からないことのほか、現在の遺伝子導入技術の限界の結果とも言える。

遺伝子の異常に関連した病気には、簡単に言って二つのタイプがある。ひとつは、先に紹介したADA欠損症のように一つの遺伝子の異常によって起こる単一遺伝子病だ。親から子供へと伝えられる、いわゆる遺伝性疾患のほとんどがこのタイプである。

両親されぞれからもらった二つの遺伝子のうち、一方の異常だけでも病気を発症するのが優性遺伝病、二つとも異常であった場合にのみ発症するのが劣性遺伝子病、性染色体(X染色体)上の遺伝子異常で起こるのが伴性劣性遺伝病だ。

もう一つのタイプは、多因子病と言って、複数の遺伝子異常や環境など、さまざまな要因が複雑に絡み合って起こる病気である。糖尿病や高血圧、動脈硬化、さらに癌の大半もこのグループにいる。

単一遺伝子病の場合、異常を起こしている遺伝子が分かれば、その遺伝子は正常なものに修復すればいいではないか、考えたくなるところだ。
一般の人が、遺伝子治療という言葉から連想するのはこの手法だろう。しかし、現在の遺伝子操作技術から見れば、まだこれは夢のような話なのだ。

狙った細胞に遺伝子を導入したり、染色体の特定の部分に目的の遺伝子を組み込む、さらに組み込んだ遺伝子の発現(遺伝子として機能すること)をコントロールすると言ったことも、今の技術では人間への適応は出来ない。

「異常な遺伝子を治すのではなく、正常な遺伝子や役に立つ遺伝子を外から付け加える、というのが今の遺伝子治療のレベル。そういう限界の中で遺伝子治療は行われているのです。」

その意味ではDNA治療と言ったほうが良いかもしれない。と浅野教授は説明している。

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