遺伝子治療の成果が、上がっていないのはなぜか?


この問題に関しては、ハンチントン舞踏病(単一遺伝子病)の研究で知られる東京大学金沢一郎教授は、かなり厳しい見方をする。

もともと遺伝子治療は、単一遺伝子病の異常遺伝子の修復を目指していたが、現実にはそれもかなり難しいところから、がんなどの多因子病に方向転換してきたという背景がある。

「がんやエイズで遺伝子治療の可能性はあると言えるでしょう。しかし、その道はそう甘くはないと思います」

金沢教授が専門とする遺伝性の神経疾患の領域では、とくに道は険しそうだ。まず、脳には血液脳関門という異物の侵入を阻む強力なバリアーがある。ここを越えて、遺伝子を導入した細胞や薬剤などを脳に送り込むこと自体が、まず難しい。

更に問題は、脳の発達過程のどの時期までに遺伝子治療をしなければいけないのか。と言う点だ。肝臓の組織などは赤ちゃんでも大人でもそう大差はないが、脳はまさに雲泥の差がある。いったんまちがった形でできあがってしまった脳を正しい形に治すというのは、極めて難しい。

しかし、神経系の遺伝病の中には、この二つの難問がないながらも、深刻な筋肉の病気がある。筋ジストロフィーである。

筋ジストロフィーは、一つの遺伝子によって起こる単一遺伝子病で、骨格筋の変性や壊死を起こす。つまり、手足の筋肉が萎縮してうまく動かすことができなくなる。これには、いくつかのタイプがあるが、このなかに遺伝子異常(DNA遺伝子)によるジストロフィンという蛋白ができなくなるタイプがある。

これは筋肉の細胞がターゲットであることから、神経系の病気では、最初の遺伝子治療の研究対象になった。しかし、遺伝子を細胞に導入しても、うまくいかない。ジストロフィンができてこない。

「いろいろなところで隘路にぶつかっているのだけど、なぜダメなのか、その理由がわからない。性状のプロセスを踏まずに途中から遺伝子を入れて無理矢理別のプロセスに進ませようとするからダメなのか、それともベクターなどの技術的な問題なのか、それも見極めがうまくつかないのです。」
と金沢教授は、遺伝子治療の壁の高さを語っている。

そこで発想を変えて、たとえば遺伝子の発現を抑制する方向でアプローチしてはどうかという考えももっている。ハンチントン舞踏病のような、異常なものができるために起こる病気もあるからだ、案外その方が扱いやすいかもしれないというのである。しかし、この可能性もまだ今のとこと夢の段階だ。

「遺伝子治療の研究は徹底的に行わなければいけないが、その道はきっして甘くないことを理解しておくべきだ」と金沢教授は指摘している。

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