遺伝子の解明によって、病気の何がわかってきたのか?


遺伝子学の進歩によって、病気に関してさまざまなことがわかってきた。たとえば糖尿病は多因子病の一つで、生まれつきの素因を持っている人に肥満や運動不足などの環境因子が加わって発病するといわれている。

しかも、糖尿病といっても、さまざまな種類の遺伝子異常によって起こることがわかってきた。細胞内にあるミトコンドリアの遺伝子異常によって起きるタイプもあれば、インスリン遺伝子に異常のあるタイプもあるのである。

埼玉医科大学の村松教授は、「ひとつの病気が、いろいろな遺伝子異常で起こりうる。糖尿病の場合は、実際にはいろいろな遺伝子異常が、同じ症状を示す症候群といってもいいのです」と解説している。

反対に一つの遺伝子異常が、さまざまな病気として現れることもある。たとえば、retというがん遺伝子がある。これは、多発性内分泌腫瘍や甲状腺髄様がんを起こすことが知られているが、ヒルシュプルング巨大結腸症と言って腸が動かなくなる難病を引き起こすことがわかってきた。遺伝子異常といっても、それがどのような形で起こるかで、まったく別の病気になることがはっきりしてきたのだ。

一方、金沢教授はもっと根源的なとことで病気を考え直すべき時に来ていると指摘する。
「遺伝子学の進歩で、病気は細胞が本来持っている機能を果たさなくなった状態だということがやっとわかってきた。また、その際、多くの細胞が死んでゆくこともわかってきた。筋ジストロフィーでは筋肉の細胞、神経変性疾患では脳の神経細胞が死んでいく。しかし、遺伝子異常と細胞死の関係はわからない。遺伝子だけで病気は語れないことこともわかってきたのです。」

病気の責任遺伝子もわかり、どういう異常が起きているかもわかってきた。しかし、それと細胞死との関係はほとんどわかっていない。

たとえば、ハンチントン舞踏病は、手足が意思とは無関係に動くようになる病気で、やがて脳細胞の死滅から精神や知能に障害が起こり、最終的には寝たきりになって死に至る悲惨な病気だ。優性遺伝する病気で、両親のいずれかが遺伝子の異常を受け継ぐと、ほぼ100%発病する。

この病気では、グルタミン酸を指定するC(シトシン)、A(アデニン)、G(グアニン)という塩基配列の繰り返しに問題があることがわかっている。普通の人は20回ほどなのに、ハンチントン病の人は40回以上も繰り返しが続くのだ。世界的研究では、34回以下が正常で、36回以上になるとハンチントン病になるということもわかってきた。そして、父親から遺伝子異常を受けた場合、この繰り返し部分の伸長が起こることが多く、それによって発病年齢が早くなるという興味深い事実も発見された。

しかし、ここまでわかりながら、グルタミン酸の遺伝子が異常を起こすことで、なぜ脳の神経細胞が死ぬのか、その関係はまだわかっていない。ごく一部の酵素異常症で細胞死との関係がわかったものはあるが、それは例外を言ってもいいのである。

ここに、金沢教授は遺伝子学の限界を見ており、「遺伝子学の進歩で病気の理解は進んだけれど、肝心なとことは遺伝子学だけではわからないことがわかってきた。それからは、病気の生物学知識を総動員して考えないといけない」と指摘している。

病気から寿命まで、全てを解消する夢のような学問として遺伝子学はみられてきたが、実際には遺伝子をもってしてもわかることとわからないことがわかってきた。もちろん、それはまた、新しい出発点でもあるのだ。

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