第3章遺伝子から病気に迫る方法論が生まれた


原因の分からない病気を対象に、家系調査→リンケージ解析→どの染色体のどこにあるかというポジション決定→DNA取り出しという手法で、病気の解明に迫れるようになったのは、医学にとって画期的なことだった。

こうして、人類の10大遺伝病とされた疾患の原因遺伝子は、1993年にはすべて手にいった。1995年春の時点では、ポジショナル・クローニングで入手された疾病遺伝子のリストは35を越している。かつて、病気の原因である微生物を追って、コレラ、チフス、結核などと調べていったのと同じように、今ではDNAを調べることが、病気への挑戦となったのである。

DNA研究の進歩、あるいは解析能力の向上を踏まえて、ゲノムの全体像をつかもうというだけなら、いろいろな生物の中で、最も複雑なヒトから取り組むことはなかろうという意見もあるだろう。単純なものから複雑なものへと研究を進めていくのが、常識的なやり方だ。そのような中でヒトゲノム解析計画は一気にヒトを目指すところが特徴である。その提唱の背景には、ヒトの遺伝子、遺伝子系の研究が実際に進んでおり、まだ不十分だといえ、何十万文字の領域を対象にヒトDNAの解析ができるようになったという技術の進歩がある。そして医学に新しいブレークスルーが出現したという緊張感と、こうした勢いを加速したいという願いもある。

ヒトゲノムの全体像を得ることは役にたつ。それは難病の解決という問題を越えて、われわれすべての健康と福祉に関わることである。病気の原因の解明だけでなく、診断に、さらには治療法の開発や薬づくりにつなげ、健康や幸福の増進をはかるというわけだ。そういう意味ではヒトでなければ研究者の元気も出ないし、予算もつかない。

ヒトの遺伝子が全部で10万個くらいあるだろうと見積もられている中で、今日文字配列まで調べあげられたのは約4000。現在の技術と方法でも、毎年数百の新しいヒト遺伝子を取り出し研究できる。そのどれひとつとっても、人間の理解に重大な意味を持つものばかりだ。しかし、全体像を求めようとすると、これでは話にならない。

ヒトゲノム計画は、この解析を組織的に加速しようというわけだ。プロジェクトの進行に伴って、画期的な技術開発も見込める。目標は、現在の数百倍から千倍のDNA解析能力のアップだ。DNA研究の重要性はこれまでの生命科学研究と医学に与えた影響で十分証明済みだ。この技術が千倍能力向上し、全ゲノムの遺伝情報を解読した巨大データベースが出来上がったら、医学は大きく変わるだろう。その技術系が以降の医療に大変革をもたらすことも明らかだ。医学だけでなく、生命の研究全体が大きく情報化という変容をとげるのではないか。何か新しいものが見えてくることは確かだ。それは、おそらく、私たちの思想にも、現実の社会のありようにも影響を与えるだろう。

DNAを基本にして、生命現象を理解しようとする中で、まず浮かび上がってきたのが病気の問題だったのは、人間が常に自分の健康や寿命に関心をもっている以上当然だ。今日の科学は、その研究費のほとんどを公の資金に頼っているので、社会の多くの人が関心もつこと、望むことに関連し、あるいは科学や技術のこれからに大きな影響があると考えられることに注意を向ける必要が出てくる。ヒトゲノム解析計画には、この要素が強い。

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