B型肝炎ウイルス


国立長崎中央病院 矢野 右人

B型肝炎ウイルス(HBキャリア)は世界で2億人以上存在すると推定されている。我が国では最近のキャリアの減少は著しいものの現在でも100万人以上の存在が推定されている。

昭和61年より開始されたHBIGおよびHBワクチンによるHBV母子感染予防事業により新規のキャリア発生数は激減し、現時点では年間300〜400名程度のキャリア成立が見られているにすぎない。したがってHBVキャリアはすでに限定された疾患と考えられる範疇に至っている。

HBVキャリアの現時点での問題はウイルス側の要因として変異株による病体発生の解明であろう。一方宿主側の要因としてはHBVに対する特異的免疫応答で液性抗体による血中HBV粒子の中和、排除および細胞傷害性Tリンパ球(CTL)による感染肝細胞排除機序の解明である。
最近ではHBc抗原を肝細胞表面に持つ感染細胞の破壊によりHBV排除が行われることが解明された。

臨床的に見るとHBV感染経過中全く健康キャリアとして免疫寛容状態にある時期、あるいは肝細胞破壊が激しく起こり活動性慢性肝炎として経過する時期、そしてe抗体陽性となり再びキャリアに戻るもの、あるいは肝硬変へ移行したにも関わらず無症候、肝機能正常となり経過するものなど、この間のウイルス側要因と宿主側要因の兼ね合いが解明されていかねばならない。特にウイルス側要因の変異株は結果として起こっているのかあるいは変異株に対する特異免疫反応が存在するのかが問われている。

HBV感染の経過


1) HBVキャリア成立後の健康キャリア期
 

我が国でのHBVキャリア成立は母子感染による垂直感染に限られるとされる。出産後一部のキャリアでは、GOT,GPTの高値を示すものの、大多数は肝機能が安定化し正常を持続するいわゆる無症候性キャリアに移行する。この期間はe抗体陽性でHBV量は高値を持続するいわゆるe抗原陽性キャリアである。HBVはPre Core領域およびCore Promoter領域ともに野生株であり、宿主側から見ると高ウイルス量に対する免疫寛容状態である。

発病者の多くは20歳前後よりこの免疫寛容状態が崩れるが、早い例では7〜8歳頃より肝機能異常となり慢性肝炎の状態を呈する例も存在する。発症年齢が若年者ほどe抗体へのセロコンバーション、その後のウイルス血症解消への確率が高く予後良好といえる。

2) 慢性肝炎期

慢性肝炎例は健康キャリアより青壮年期にGOT,GPTの著しい上昇、低下を繰り返し活動性肝炎へ移行する例が多い。

173例のe抗原陽性慢性肝炎の経過を見ると、平均8年の観察で173例中究極的には約60%がe抗原陰性化し、40%がe抗原持続陽性またはe抗原出没例として続いた。

現在、e抗原陽性の活動期では最初にCore Promoter領域の変異が起こり、その後e抗原消失時期よりPre Core領域の変異が起こる経過をとる症例が多いと考えられる。

慢性肝炎の経過をe抗原抗体よりパターン化すると、e抗原より急速にe抗体陽性期となり肝機能の再燃がなく正常化する群、e抗原、e抗体出没を繰り返しながら次第に肝機能が安定化する群、さらにe抗原が持続陽性で炎症の持続するパターンに区別される。

年齢別に見るとe抗原の急速なe抗体への変化する群は若年者に多。この群では比較的予後良好群が多くe抗体陽性の健康キャリアへの移行が一般的である。

e抗原出没群では次第に肝機能安定化へ移行するものの、非進行性の群と肝硬変へ移行し一見無症候性キャリアでも安定期の肝硬変へと移行する群に分かれる。


e抗原持続陽性を持続する群は終始活動性慢性肝炎として進行する群である。


慢性肝炎より肝硬変へ進展しかつ経時的肝生検を施行しその繊維化の推移をみた30例の経過から見ると、これらの進行の形態から見ると生涯続くHBV感染の中で肝硬変へ移行する炎症はほぼ3年以内であり、時期的には限られた期間に免疫応答が激しく反応していることが推測される。

3) セロコンバーション後の経過


e抗原セロコンバーションの時期ではPre Core領域あるいはCore Promoter共に変異株が優勢となりHBウイルス量は極端に低下する。臨床的にはこの時点の肝障害の程度、肝硬変への進展状態が重要であり、stage1,2の状態でのe抗原消失であればその後の肝硬変進展の可能性はほとんどない。しかし前肝硬変状態あるいはすでに肝硬変へと進展した後のセロコンバーションと厳格に区別することが患者の予後を把握する上で重要である。

肝胆膵 37(6),1998