B型慢性肝炎


山梨医科大学第1内科 赤羽 賢浩


はじめに

幾多の肝炎ウイルスの中で最も早く同定されたB型肝炎ウイルス(HBV)およびHBV感染症であるB型肝炎に関しては、最も多くの知見が集積されているが、中でもB型肝炎の各種の病態がHBVの変異と密接に関連する事実が解明されたことは、ウイルス肝炎の病態解明に多大な貢献をもたらした。

しかし、実地臨床上のB型慢性肝炎に関しては、急性増悪期の派手な病態に幻惑され、長期にわたる真の自然経過は十分に解明されているとは言い難い。

さらに、インターフェロン(IFN)治療は開発当初に期待されたほどの効果は得られず、ステロイド離脱療法は効果が大きい反面、重症化などの危険性から症例の適応を厳しくせざるを得ない状態で、決して満足できるものではなく、遅々たる歩みを余儀なくされている。

最近Lamivudineによる治療がB型慢性火炎の自然経過を画期的に改善させる可能性が出てきたが、長期の予後は今後の課題である。

HBe抗原からHBe抗体へのseroconversion


我が国のHBVキャリアの大部分は週産期を含む乳幼児期のHBV感染が成立しキャリア化した症例であり、大半は成人に達する以前にHBe抗原のseroconversionをすませ、成人後はHBe抗体陽性の無症候性キャリアとして経過する。われわれが実地臨床の対象とする肝障害を伴うB型慢性肝炎の大部分は、成人期に至ってもHBe抗原のseroconversionが完成しない症例であると考えられる。


かつて第13回犬山シンポジウム(1983年)では、HBe抗原陽性例の自然経過をテーマとして検討した。その際報告された我が国の数施設のHBVキャリアの自然経過におけるHBe抗原の消失率、HBe抗体へのseroconversion率は驚くほど類似しており、HBe抗原消失率は年間平均11〜12%、seroconversion率は年間5〜6%であった。

HBe抗体陽性のB型慢性肝炎


虎ノ門病院の荒瀬は、HBe抗原陰性のB型慢性肝炎1,320例を解析し、約20%でALTが100単位を越えて増悪し、5年以上の間隔で肝生検を行うと、ALTが異常を示す症例の42.5%が組織学的に増悪を示し、18.4%に肝硬変へ進展した成績を報告している。

治療による自然経過の修飾


B型慢性肝炎の経過が治療によりどの程度改善できるかは臨床的には重要な課題である。


国立長崎中央病院の八橋らは、IFN治療を行ったHBe抗原陽性のB型慢性肝炎50例を長期観察した成績を報告している。

IFN治療例のHBe抗原陰性化率は、治療1年後20%、2年後で30%で、自然経過例の10%,20%より若干優れている程度であり、また長期予後を自然経過の198例と比較すると、肝硬変への進展はIFN治療例で年率3.8%、自然経過例で3.9%と概算され、肝細胞癌への進展率も各々年率1.0%,1.1%と差を認めていない。

以上より現行のB型慢性肝炎に対するIFN治療は、一時的にHBVを抑制するものの治療後1〜2年後は自然経過例と差を認めず、B型慢性肝炎の予後を改善しているとは言い難いと結論している。

ステロイド離脱療法は系統的に完成させた熊田らは、HBe抗原陽性B型慢性肝炎にステロイド離脱療法を行い、治療終了1年後のHBe抗原消失率は64.8%,2年後のそれは73.3%,3年後のそれは81.8%で、対照とした自然経過例のHBe抗原消失率14.5%,18.8%,20.8%に比較し、優位な改善を報告している。

またseroconversion率も治療終了1年後、2年後、3年後で各々48.6%,66.7%,63.6%あり、対照の自然経過例の12.5%,12.5%,18,8%より有意な高率を示した。

この成績は驚異的な成績であるが、B型慢性肝炎へのステロイド投与は、一時的にせよ、B型慢性肝炎患者のウイルス量を増加させ、さらに少数例とは言え肝炎の重症化、激症化を誘発する危険性を含んだ治療法である。

HBVキャリアにおけるHBs抗原の消失例


第13回犬山シンポジウムでHBs抗原の自然消失例が集積されたが、ほとんどが非活動性の肝繊維症に移行しており、その予後はきわめて良好と結論されている。
HBVキャリアでウイルスのキャリア状態が解消されれば、肝細胞癌の合併に関しては可能性は残るものの、炎症は治癒に向かう点では議論の余地は少ないように思われる。

B型慢性肝炎の予後


 B型慢性肝炎のうちどの程度が肝硬変、肝細胞癌に進展するのであろうか?臨床家のfollow up studyはどうしても増悪例を中心に行われる傾向にあり、必ずしも妥当な成績とは言い難い。この点に関しては、やや古いデータになるが、西岡は、我が国には約310万人のHBVキャリアが存在し、無症候性キャリアが87%、慢性肝炎は10.6%、肝硬変は2.1%、肝細胞癌は0.3%を概算している。

肝胆膵 37(6),1998