B型慢性肝炎(ステロイド離脱療法)

虎ノ門病院消化器科 熊田 博光

1.ステロイド離脱療法の理念

  1979年に我々が報告した「ステロイド離脱療法」は、治療法の根底にB型慢性肝炎をB型急性肝炎の経過と似たものにしたいという考えがある。すなわちB型急性肝炎では自然経過でe抗原が陰性化し、続いてHBs抗原が陰性化するのに対して、慢性肝炎では容易にe抗原が陰性化することはない。またHBs抗原が消失することもない。

そこで慢性肝炎の経過中に急性肝炎と同様な現象を人為的に起こせば、急性肝炎と同様なe抗原が消失が得られるのではないかという考えである。具体的にはステロイド剤を短期間使用し、中止後に起こる強い血清トランスアミナーゼの上昇を急性肝炎の反応が起こったと見立てて、この経過を見守ればe抗原は陰性化すると考えたのである。

2.ステロイド離脱療法の具体的な投与法

  ステロイド離脱療法は、プレドニゾロンの初回投与量は40mg/dayとした。その理由は、ステロイド剤は免疫抑制剤であるが通常10mg/dayあるい20mg/dayのステロイド剤ではreboundが起こらないことがすでに知られている。逆にステロイド剤が60mg/day使用すると、T-cellおよびB-cellのいずれもが抑制され、そのために免疫賦活が起こらないという考えがある。そこで40mg/dayが妥当と考えたのである。

3.ステロイド離脱療法の実際

ステロイド離脱療法はGPT値が200KU(400IU)以上でなおかつ上昇傾向にあるときに開始するのが望ましい。

まずプレドニゾロンを1日40mg(朝30mg,昼10mg内服)を1週間投与する。ステロイド治療中は抗潰瘍剤などを併用を敢行する。典型例では、ここでトランスアミナーゼの著名な低下が得られるので、これが確認できれば2週目からはプレドニゾロンを1日30mg(朝20mg,昼10mg)に減量し、さらに1週間投与する。そして3週目はプレドニゾロンを1日20mg(朝15mg,昼5mg)に減量して投与し、3週間投与した時点でトランスアミナーゼはやや上昇傾向になる。

その時点でステロイドを中止する。ステロイド中止後は毎週採決し、トランスアミナーゼのrebouund現象をみていく。外来で行う場合はビリルビン値が参考になるが、トータルビリルビンが1.1mg/dl以上になるようであれば、入院し経過を観察する。通常、ステロイド中止後2〜6週後にトランスアミナーゼ200〜500KU(400〜1,000IU)に上昇し、その後下降に転ずる。しかし上昇傾向がさらに強い場合は入院して安静でみる必要がある。

4.ステロイド離脱療法施行例の予後

  ステロイド離脱療法を施行した174例について3ヶ月後のe抗原陰性化率は47例(27.0%)、6ヶ月後は84例(48.3%)、1年後は108例(62.1%),2年後は128例(73.6%)であった。

またseroconversionした率は、3ヶ月後は26例(14.9%)、6ヶ月後は30例(17.2%)、1年後は64例(36.8%)、2年後は81例(46.6%)であった。

またe抗原陽性でステロイド剤の治療を行った群とステロイド剤以外の治療、すなわちインターフェロン治療を行った群でのe抗原の長期的な陰性化率をみてみると、ステロイドを使用しなかった群では5年後のe抗原陰性化率は39%,ステロイドを使用した群では80%、10年間ではステロイドを使用しなかった群では55%、ステロイド使用群では88%と長期的にもe抗原陰性化率はステロイド離脱療法の方が改善していた。

5.HBs抗原消失例の検討

HBs抗原消失例と非消失例について、そのHBV DNA量との関係について検討した。その結果,ステロイドを行った行わない関わらず、HBs抗原が称した症例はbranched DNA probeで1Meq/ml以下の症例が多く、非消失例に比べ明らかに治療前からHBV DNA量が少ないことがわかる。

6.ステロイド離脱療法後の重症化

ステロイド離脱療法施行時のもっとも注意すべきことは、ステロイド離脱療法後の重症化である。

ステロイド離脱療法によって起こったトランスアミナーゼの極度の上昇や黄疸については、ステロイド60mgを早期に再使用することが大事である。

B型慢性肝炎の重症化の頻度については、以下のごとくである。

 

   B型慢性肝炎の重症化

自然経過      18/1433(1.2%)

ステロイド離脱療法  5/321(1.6%)

インターフェロン   3/201(1.5%)

セロシオン      2/74(2.7%)

小柴胡湯       0/132(0.0%)

 

 

7.ステロイド離脱療法の適応と禁忌

ステロイド離脱療法を行う場合には重症化が問題となるため、その適応と禁忌をまとめてみた。

なたステロイド離脱療法後に重症化した場合、回避するためには、ステロイド60mg/dayの再投与を行うべきと思われる。

適応症例はまずe抗原持続陽性のB型慢性肝炎で、腹腔鏡・肝生検にて慢性活動性肝炎と診断された症例である。

ステロイドの開始時期はGPT値が200KU(400IU)以上で上昇傾向にあり、e抗原も上昇傾向にある時点が望ましい。

逆に禁忌となるのは、肝硬変症例で、トランスアミナーゼがGOT優位の例、AFP値が30ng/ml以上の高い症例、また黄疸がある症例である。

またステロイド離脱療法後に重症化した場合、回避するためには、ステロイド60mg/mlの再投与を行うべきであると思われる。

 

適応

1.e抗原持続陽性例

2.腹腔鏡・肝生検にて慢性活動性肝炎と診断した症例

3.開始時期

1.GPT>400(I.U) 上昇傾向

2.e抗原:上昇傾向

禁忌

1.肝硬変例

2.GOT>GPTの慢性肝炎

3.AFP高値例(>30ng/ml)

4.黄疸がある症例(含む黄疸歴がある症例)