刊行によせて
              

社団法人日本肝臓学会理事長 谷川 久一



 今度,日本肝臓学会が"肝がん白書"を発刊するにあたり,その趣意を述べ,序文としたい.
 本邦でみられる肝がんの大部分(95%以上)が肝細胞由来の肝細胞がんであるので,これから述べる肝がんは肝細胞がんを指すことにする.この肝がんは近年本邦で著しい増加を示すが,その著しい増加が大きな問題である以外に,次に述べる他の悪性腫瘍と異なる種々の特徴を有することと,そしてこの肝がんを早急に撲滅すべき社会的要因がある.したがって日本肝臓学会は肝がん撲滅の国民運動を展開することを決意し,この白書を刊行することにした次第である.以下その発刊理由について簡単に述べたい.

1.近年の著しい患者の増加

 近年ことに1975年頃を境にして本邦で現在に至るまで肝がんの著しい増加がみられ,したがってその死亡者も著しく増加してきた.現在年間3万人を越える死亡数で,全体的にみるとがん死では第3位をしめる.そしてさらに向こうおよそ10年間はこの増加が続くことが予想される.

2.本邦でみられる肝がんの原因

 本邦でみられる肝がんの95%以上が,B型肝炎ウイルス(HBV)ならびにC型肝炎ウイルス(HCV)の持続感染者で,これら肝炎ウイルスの持続感染による慢性肝疾患(慢性肝炎,肝硬変)から発生する.ことに近年その80%以上がHCVに関連したもので,近年の本邦における肝がんの増加は,HCV関連の肝がんの増加によることが明らかとなった.最近の種々の研究や臨床的事実から,両肝炎ウイルスによる発がんの機序も明らかになりつつある.

3.C型肝炎ウイルス感染者の増加の要因

 HCV感染の増加は,種々の検討から戦後本邦における社会的あるいは医療事情により,すなわちヒロポンなどの覚醒剤の蔓延,輸血等の医療行為にもとづくものなどが原因で感染者が増加したものと思われる.そして平均して感染より30年前後で発がんが発見されることも明らかになってきた.すなわち人為的な行為で感染し,それにもとづく肝がん愚者が現在まで増加してきたことになる.HCV感染にもとづく慢性肝疾患の半数以上が将来的に肝がんになることも明らかになってきた.

4.肝がんは早期発見が可能である

 肝がんのほとんどすべてがHBVないしはHCVの持続関連にもとづく慢性肝疾患から発生する.すなわち肝がんになる人は決まっている.したがってリスクグループが明らかであるので,これらの人々を定期的に超音波検査等で経過観察することにより早期発見が可能である.腫瘍の直径が2cm以下で発見され,適切な治療がなされれば,予後は良い.

5.肝がんは予防が可能である

 肝がんになるリスクグループが明らかであるので,これらの人々に対する予防対策が可能であることに慢性肝疾患患者に対してはインターフェロン(IFN)療法が肝がんの予防に有効であることが明らかになってきたが,IFN療法の無効例が多いことで,この方面の研究がことのほか大切である。
上述の如く,多くの悪性腫瘍の中で,原因が明らかであり,しかもリスクグルーフが明確にわかっているものは肝がん以外にない.したがって予防や早期発見が可能なわけである.
 しかも発がんの原因である肝灸ウイルスのうち現在最も多いHCV感染は,本邦では戦後の社会的あるいは医療の事情に起因していることを考えると,私共肝臓病診療に携わっている医師,研究者のみならず,医学会さらには厚生省はもとより地方自泊体など,社会全体がこの肝がんに対して特別な関心と撲滅のための努力をしなければならないことは明らかである.米国を例にとると今までエイズに大きな研究費と対策費が費やされてきたが,新しい薬剤の併用療法が効を奏し死亡率が近年著しく減少したことから,現在それに代わるものとして多くの研究費ならびに対策費がC型肝灸に関連したものに提供されている.それは米国においてここ十数年,
覚醒剤蔓延の結果HCV感染者がおよそ400万人と増加し,将来的にこの感染にもとづく多数の肝がんの発生が予測されるからである.

本邦における肝がん撲滅対策は,以上の理由から,もっとも重要な本邦における医療の課題であることが理解されるさらに,この対策を成功させることが諸外国の肝がん対策にも貢献するで去ろうことを指摘したい.関係各位の御理解と御協力を切にお願いする次第である。

 肝がんを減少させるための提言

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