肝硬変の治療


大西三郎(高知医科大学教授)

治療の進歩により、現在では肝硬変も恐い病気ではなくなりました。合併症の管理もできるようになり、肝臓癌への移行も遅らせることが可能になっています。

1.肝硬変とは:慢性肝炎が進行し、肝臓が繊維化し、硬くなったもの


 肝硬変は、慢性肝炎が進行することで起こります。慢性肝炎になると、肝臓の細胞は次々に壊されていきます。肝臓はその細胞を再生させようとしますが、破壊が速すぎて追いつかずに元の状態に戻せない場合があります。そうなると壊された細胞は繊維状の組織となって、肝臓は小さな瘤を形成し(結節化)、硬くなってきます。これが肝硬変です。肝硬変になると、正常な肝細胞の数が減ってしまうため、肝臓の働きが低下してきます。
 
肝臓の働きには、次のようなさまざまなものがあります。

まず、糖質、蛋白質、脂質の三大栄養素を体に必要な形に作り替えるという働きです。これらの栄養素は消化器でそれぞれブドウ糖、アミノ酸、脂肪酸に分解された後、血液を介して肝臓に運ばれ、さらにさまざまな物質に作り替えられます。
 
ブドウ糖からhグリコーゲンが合成され、貯蔵されます。グリコーゲンは、必要に応じて再びブドウ糖になって血液に放出され、エネルギーになります。

アミノ酸は、グロブリンやアルブミンという蛋白に作り替えられ、血液によって体の各部に運ばれます。

脂肪酸はエネルギー源になるだけでなく、一部はコレステロールなどの合成に利用されます。
 
さらに肝臓は体内における科学工場のような働きをしているといえます。肝硬変になって、肝細胞の数が減ってくると、こうした肝臓の能力は低下してしまうのです。

2.種類と時期:代償性肝硬変と非代償性肝硬変がある


 肝硬変は、肝臓の働きがどの程度保たれているかによって、代償性肝硬変と非代償性肝硬変に分類されます。

1)代償性肝硬変

壊された肝細胞があまり多くないため、残された肝細胞で何とか必要な働きをしている時期です。破壊された肝細胞の働きを、ほかの肝細胞が代償していることから、この病名がつけられました。この時期から、さらに病気が進行すると、次の非代償性肝硬変になります。

2)非代償性肝硬変
 
壊された肝細胞が多く、残された肝細胞では体が必要としている仕事が十分にできなくなった状態を指します。非代償性肝硬変になると、いろいろな症状や合併症が起きてきます。
 
主な症状として、全身倦怠感、腹部膨満感、食欲不振、女性化乳房、手掌紅斑、くも状血管腫などがあります。合併症としては、肝不全や食堂静脈瘤があります。
 
肝不全になると、黄疸がでたり、血液中のアルブミンが低下することによって、血液中の水分が血管外に漏れやすくなり、腹部に水分(腹水)が溜まります.また、肝臓の解毒力が低下して血液中のアンモニアが増え、脳に影響がでる肝性昏睡などがみられます。
 
食道静脈瘤は、食道に沿って走る静脈に瘤状に膨らみができるもので、これが破裂すると大出血を起こし、生命に関わりかねません。
 いずれの肝硬変も、放っておくと肝臓癌になる可能性があるので注意が必要です。

3.検査:自覚症状のない代償性肝硬変は、検査による早期発見が大切です。
 
肝硬変は慢性肝炎が進行して起こるので、慢性肝炎の段階から次のような検査を行い、肝硬変になっていないかどうか調べます。

1)血液検査
 GOT・GPT値:肝細胞の破壊されている程度を調べる検査です。
 ICG値:肝臓の解毒機能を調べます
 ビリルビン値:ビリルビンは黄疸を発症させる物質です。これが高い場合には、肝機能がかなり低下していることを意味します。
 アルブミン値:肝臓の蛋白質合成の働きを調べる検査です。

2)画像検査
 超音波検査:体外から超音波を当て、その反射を利用して体内を画像化します。
 CT(コンピュータ断層撮影):エックス線によって体の横断面を画像化する検査です。

3)肝生検
 肝臓に針をさして組織を取り出し、顕微鏡で調べます。この検査は入院が必要です。
 
非代償生肝硬変の場合、肝臓の働きが十分でないため、症状や血液検査などもはっきり異常が現れます。しかし、代償生肝硬変の場合には、血液検査だけでははっきりしないこともあるので、肝生検で肝硬変まで進んでいるかどうか診断します。
 
すでに肝硬変になっている場合は、肝臓癌の早期発見のために、定期的に次のような検査を受けます。特に自覚症状のない代償生肝硬変の人は、検査が重要です。
 
腹部超音波検査(3カ月に1回):画像により癌の有無を調べます。
 
血液検査(2カ月に1回):癌になると血液中に増える物質を、腫瘍マーカーといい、その値は、癌の有無を知る際の指標の一つになります。
 肝臓癌の場合には、AFP,PIVKA-が腫瘍マーカーとして使われます。

4.治療:薬の内服や注射によって肝臓癌への移行を遅らせる


 肝硬変になった肝臓を、元の状態に戻す方法はありません。そこで、残された肝臓の機能を助け、肝臓癌への移行を遅らせることと、合併症をコントロールすることが、肝硬変の治療では大切になります。

<代償性肝硬変の治療>肝臓の機能を助けるのが主な目的です。

1)薬物療法
 ウルソデスオキシコール酸(内服):GOT,GPTの値を下げる効果があります。
 小柴胡湯(内服):漢方薬で、やはりGOT,GPTの値を下げるのに有効です
 グリチルリチン製剤(注射):前記のような薬で効果が無い場合に用います。
GOT,GPT値を低下させ、肝硬変の進行を抑える働きがあります。
 アミノ酸:アルブミン値が低下している場合に用いることがあります。
 
また、肝硬変では胃潰瘍が起きることがあるので、胃酸の働きを抑制する薬剤を内服することもあります。

2)生活指導:肝臓の状態が特に悪くなったとき以外は、激しい生活制限は行いません。気をつけてほしいのは、次のような点です。
 
肉体労働や激しいスポーツは避ける:体に負担をかけすぎてはいけません。ただし、日常生活で体を動かすことは問題有りません。
 
バランスのとれた食事:かつては高エネルギー・高蛋白質の食事がよいとされてきました。しかし、最近の日本人の食生活では、エネルギーも蛋白質も足りていますから、栄養のバランスをとることをこころがけます。
 
原則的に禁酒:アルコールは肝臓で解毒されます。飲酒は肝臓に負担をかけるので、原則的には禁酒する必要があります。

<非代償性肝硬変の治療>合併症に対する治療が中心となります
 
黄疸:黄疸がある場合、症状はかなり進行しています。強い黄疸に対しては、現在では肝移植しか有効な治療法はありません。
 
腹水:塩分と水分を制限し、利尿剤を使用します。これで効果が無ければ、アルブミン製剤を用います。
 
肝性昏睡:内服薬や注射薬で血液中のアンモニアを低下させます。場合により食事の蛋白質を制限します。
また、アンモニアは腸内で発生するので、便秘をしないことが大切です。
 
食道静脈瘤:静脈瘤破裂を防ぐために、以前は外科手術が行われていましたが、現在は内視鏡を使用して、静脈瘤に硬化剤を注入して、瘤を退縮させる治療が行われています。

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