第1章:ミームとは


ミームという言葉は、オックスフォード大学の生物学者リチャード・ドーキンスが、1976年の彼の著書「利己的な遺伝子」の中で作り出したものである。

それ以来ミームという言葉は、ドーキンスやほかの生物学者、またはヘンリー・プロトキンのような心理学者、そしダグラス・ホフスタッターやダニエル・デネットのような認知科学者らによって、繰り返し取り上げられるようになった。そして、この意識と考えに関する新しいモデルが生物学的に心理学的にそして哲学的に意味することを肉付けする努力がなされた。

ミームは、生活と文化に関する科学の分野でいま起きているパラダイムシフトの中心に位置している。新しいパラダイムでは、個人や社会の観点ではなく、ミームの観点から文化の進化を見ることになる。



ミームを定義する


「ミームとは何か」という単純な質問に答えるのは、それほど簡単ではない。もし生物学者に尋ねれば、答えは恐らくドーキンスのもともとの定義に沿ったものになるだろう。

ドーキンスによるミームの生物学的定義では、「ミームは文化の伝達や複製の基本単位である。」

この定義からすると、私たちの文化と呼ぶものはすべての原子のようなミームからできており、そのミームが互いに競合していることになる。遺伝子が精子と卵子を通じて人から人へと広まってゆくのと同じようにして、ミームは心から心へと移り広がってゆく。競争に勝ったミーム、すなわちもっとも多くの心に入り込むことに成功したミームは、今日の文化を形成する活動や創造に大きく関与するのである。



心理的定義


心理学者にミームが何であるかを尋ねれば、少し違った答えが返ってくるだろう。その答えは、行為を構成する要素よりも、心の働きという側面にスポットを与えたものである。心理学者ヘンリー・プロトキンによるミームの定義は次のようなものである。

ミームの心理学的定義とは、「ミームとは文化の遺伝単位であり、遺伝子のようなものである。そして知識の内部表現である。」

この定義では遺伝子との類似性を強調している。遺伝子は糸状分子DNAに存在する小さな科学的パターンである。この小さなDNA内のパターンが、あらゆる外部形態、たとえば目の色、髪の色、血液型などを決定している。

同じように、あなたの頭の中のミームが、あなたの行動を決定している。あなたの心をコンピュータにたとえれば、ミームはプログラムといったソフト部分に相当する。あなたの遺伝子が作り出した脳や神経系は、コンピュターのハードウェアにあたる。

この定義でのミームは、文化の外見的な部分ではなく、人間の中に存在している。したがって、ミーム同士の戦いが起きるのは、個人個人の心の中ということになる。



認知学的定義


私たち自身を完全に消し去り、もっと抽象的なミームの定義を考えることもできる。この定義は認知科学者である哲学者のダニエル・デネットによるものである。

ミームの認知学的定義とは、「ミームは一つの考えである。しかも、それ自身が形を作り上げ、記憶に残る個別の単位となるような複雑なある種の考えを指す。そしてミームの物理学的現れである媒介物によって広まってゆく。」

この定義ではミームの目から世の中を見てもらおうとしている。




実用的定義


生物学的定義のように、文化の進化を理解できるようなミームの定義がほしい。しかし心理学的定義のように、ミームが内部表現であることをはっきりさせることも必要である。さらに認知学的定義のように、ミームを外部世界に影響を及ぼすような考え、すなわち私たちのソフトウェア、あるいは私たち自身の内部プログラムとして見なすことも大切である。

結局、本書では、ドーキンスが1982年に書いた「The Extended Phenotype(延長された表現型)」で用いたものに近い定義を使うことにする。


ミームの定義

ミームとは心の中の情報単位であり、その複製が他の心の中にも作られるようにさまざまなできごとに影響を及ぼしてゆく。



「すぐれたミーム」とマインド・ウイルス


すぐれたミーム、あるいはうまくできたミームというとき、それは人々の間を容易に拡散してゆく考えや信念を指しているのであって、優れた考えを意味しているわけではない。

マインド・ウイルスは、ミームで世の中の人々を感染させる「何か」である。そしてこのミームはまた、感染した人の行動に影響を及ぼして、ウイルスを維持、拡散させる手助けをその人にさせる。

例えば、ナチスはヒットラーの時代のドイツに急速に浸透していった。マインド・ウイルスが放たれ、ナチスのミームで人々を次々と感染させていったからである。ナチスの考えがどんな意味においても「優れた考え」だったからではない。実際ナチスの考えは、病的マインド・ウイルスであった。これは、ミームに感染した人間の行動の結果として恐ろしい非道を生み出した。流行性の思考感染の古典的ケースである。

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