メス化する自然


デボラ・キャドバリー


現在、精子の数の劇的な減少が報告されている。デンマークの研究によれば、過去50年間に精子数は半減したという。英国のエジンバラの研究では過去25年間に25%の減少、フランスのパリでも同じ様な減少が伝えられた。これらのデータに反論はあるものの、人間の生殖に不穏な変化が起きていることは、他の研究によっても確認されている。

精巣癌や男児の性器異常も、目に見えて増加している。このままの勢いで、精子の数が減り続ければ、そう遠くない将来、人類は生殖の危機に瀕すると論ずる科学者もいる。

その一方で、野生生物に驚くべき異変が現れている。一部の野生生物に「メス化」の兆候が観察され、オスのペニスが著しく小さかったり、奇妙な性転換が見られ、オスがメスのように産卵しているのだ。

癌についても、乳癌や前立腺癌の増加が対象となっている。これらの異変のすべてに共通点が一つある。いずれも女性ホルモン、エストロゲンにさらされた場合に起こるようだ。

最近になって、数多くの合成化学物質が弱いエストロゲンのような働きをするなど、ホルモンの作用を模倣することが発見された。ホルモンは体内のもっとも強力な科学伝達物質であり、遺伝子に直接作用して細胞の働きをコントロールし、生命維持に欠かせない諸機能を調節する。

プラスチックや農薬などの多くの工業製品に含まれる化学物質の一部がホルモンになりすまし、生殖や性発達を無作為に攪乱し、ある種の癌の原因となっている可能性を示す証拠がある。

さらに恐ろしいことに、私たちは日常生活に置いてそれらの化学物質を食べ、飲み、呼吸し、皮膚からも吸収している。すべての子供達は生まれ落ちる前から、いやおうなくそうした化学物質にさらされている。

本書は、最近の科学が何を解明しているか事実を語り、それが私たちの健康や公共政策にもたらしうる意義を評価しようと試みている。



プロローグ


1991年 フロリダ


 フロリダ州アポプカ湖のワニの生態を研究していたルイス・ジレット教授は、捕獲したオスワニの80%に、何らかの性器異常があることに気づいた。大部分はたいした異常ではなかったが、中にはペニスが三分の二から半分に縮小しているものもいた。そして生体の多くは生殖不能だった。巣の中の卵の多くは死んでいた。

血液のサンプルの分析から、少なくとも原因の一端がわかった。女性ホルモンのエストロゲンの値が上昇していたのだ。多くの症例で、エストロゲン値は通常の倍だった。そのうえ、オスワニでは雄性ホルモンのテストステロンの値が低下していた。いずれにせよ、生殖を支配するホルモンレベルが撹乱されていたのである。

教授は、「野生生物に見られるあらゆる現象は人間にも関連している。人間の生殖に深刻な危機が訪れる可能性があるのは間違いない」との結論に達した。



1996年 エジンバラ、スコットランド


 エジンバラのMRCのスチュワート・アービン博士は、人間の精子が激減しているという1992年に発表された論文の話を聞いて非常に驚いた。
 
王立エジンバラ診療所不妊治療クリニックの産婦人科医として、アービン博士は長年不妊治療に取り組んできた。アービン博士の手元には、研究目的で集めた過去12年間のデータと精液サンプルがあった。分析の結果は、50年代の男性では、精液1ミリリットル中の精子数は平均で1億個。それが70年代の前半生まれの男性では、約7800万個。20年間でおよそ四分の一も減少していた。



本書は、科学が何を、いかにして、発見したかを明らかにする真実の物語である。



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