第3章:エストロゲンの大海



1993年、ノースカロライナ

 アメリカ深南部にある研究所で、長年エストロゲンの及ぼす影響に興味を抱いている科学者がもう一人いた。ジョン・マクラクラン教授だ。マクラクラン教授は期せずして、ヨーロッパの研究者たちと同じ結論にたどり着いたが、彼の仮説を形作り、結論へと導いた研究はまったくちがったものだった。
 
彼が独自の専門チームを発足した頃、彼らは新たに発見された緊急課題の研究に着手した。1971年、アーサー・ハーブスト教授が、若い女性に非常に珍しい膣癌が連続して発生していることを報告、患者の共通点は母親が妊娠中にDES(合成エストロゲン製剤)を投与されたことだった。
 
マクラクランは実験で、胎生期にDESにさらされるたマウスをあらためて観察すると、マウスの膣には明らかに膣癌によく似た変化が現れていた。さらにチームが研究を進めるにつれ、DESにさらされて生まれついたオスのマウスは雌雄両方の生殖器を持っていた。つまり半陰陽だ。
 
1975年、彼らは研究の成果を「サイエンス」に発表し、妊娠中にDESを投与したマウスから生まれたオスの60%が不妊だった、と報告した。まもなくこの研究は、臨床医がDESの男性への影響を計る基準となった。
 
これらの発見は憂慮すべきものだった。発生の決定的な段階でDESのようなエストロゲンにさらされることが、成長後に、メスで膣癌、オスで癌を含む前立腺疾患を引き起こし得ることを示唆していた。
 
さらに驚くべきことは、オスのマウスは、もっと本質的に変化していた。じつは、彼らは分子レベルでメス化していた。胎内でDESにさらされたオスのマウスたちは、成長後に生殖器でメスのタンパク質の産生を示したが、これは通常ならばオスでは決して起こらない現象だ。
 
ラクトフェリンは通常、エストロゲンにさらされたとき子宮内で遺伝子によって作られる主要な分泌タンパク質だ。子宮のミルクとしても知られ、胎仔に栄養を供給し発育を促進すると考えられていた。だがオスのマウスが分泌しているタンパク質を調べたところ、ラクトフェリンの存在は一目瞭然だった。
 
こうして研究チームは、発生途上で強力な合成エストロゲンにさらされることは、三つの重要な変化を起こしうることを明らかにした。

1.出生時に目で見てわかるような構造的変化。両性の生殖器が隣り合わせているなどの生殖器官の異常だ。

2.顕微鏡かで分かる遅効性の影響、膣癌や前立腺がんと密接に結びついた細胞の存在。

3.根本的なレベルで、エストロゲンが細胞内の遺伝子の発現を変化させたこと。
 
ホルモンメッセージが撹乱され、オスがメスのタンパク質を分泌していた。

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