第5章:パンドラの箱



1992年、ワシントン

 
ワシントンの世界自然保護基金(WWF)の科学者シーア・コルボーンは、北アメリカの野生生物に関して近年の研究をまとめた本を出した。
 
コルボーンの本に集められた北アメリカの野生生物に関する研究は、シャープが研究し続けてきた人間の生殖異変と、驚くほど共通点があった。
 
シーア・コルボーン博士にとって、この本はワシントンの自然保護団体に職を得てずっと継続してきた貴重な追跡調査の集大成であった。五大湖の環境の健全度を評価するのが彼女の任務だった。
 
五大湖では、食物連鎖の頂点にいる最上位補食種のうち、少なくとも16種が生殖障害を示していました。生息数減少、繁殖障害、免疫異常、あらゆる障害が観察された。
 
注意深く見てみると、問題を起こしているのは、動物の成熟を阻害したり、出生前に死亡させたりするといったような発生への影響だった。影響は子供たちに起きていたのである。彼女は、ホルモン系こそが影響を受ける根底にある生理学的システムの一つなのかもしれないと、思い当たった。
 
彼女は内分泌学者たちとこの考えについて話し合い、野生生物や人間に関する研究から、さらに多くの例を探し始めた。しばらく後に、興味をさらに深めた彼女は思いきった手段に出た。異なる分野からそれぞれの第一線の研究者を集め、会議を開催しようというのだ。
 
1991年7月26日、コルボーンはウィスコンシン州ラシーンに20人以上の専門家を招待した。この問題に関して、野生生物学、内分泌学、分子生物学、神経学、海洋生物学など、異なる分野の専門家がそれほど多く一堂に会したのは、初めてのことだった。
 
数カ月後、出席者全員の総意が書面にまとめられた。彼らの結論は明白で決定的なものだった。
 
 私たちは次のことを確信している。環境中に放出された合成化学物質の多くは、少数の天然物質と同様に、人間を含む動物の内分泌系を撹乱する作用を持つ。それらは残留性の化学物質であり、殺虫剤、工業化学製品などの合成物質である。多くの野生生物が、すでにこれらの化学物によって影響を受けている。

 エジンバラのリチャード・シャープ博士は会議録を読んで、この問題の底知れない複雑な全体像が見え始めていた。

第一に、ヨーロッパのシャープとスキャンベックが、人間に関するデータを明らかにした。精子数が減少し、生殖器の障害が増加していることを示す証拠だ。

第二に、手元にある北アメリカの野生生物のデータは、人間に見られる異常をそっくりそのまま反映していた、鳥や魚やヒョウやアザラシなどはみな、生殖と発達に問題を抱えていた。そのうえ、このデータを調査している科学者たちもまた、彼らと同じく、性を撹乱するホルモン作用の存在を主張していた。

第3に、さまざまな実験データだ。ごく微量のエストロゲン様化学物質によって、どのように異常が誘発されるかは、動物実験ではっきり示されていた。

証拠の積み重ねによって理論のつじつまが合い始めていた。



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