第9章 科学物質の宇宙



ノースカロライナ、USA

「もしエストロゲンを模倣する化学物質にだけ注目していまえば、より広い視野を失うという深刻な危険をおかすことになります。」と米国環境保護(EPA)健康影響研究所の毒性試験部の責任者を務めるリンダ・バーンバウムは警告する。

「環境中には化学物質の宇宙が広がっていて、それらが他のホルモンシステムの働きも防げている可能性があると認識することが重要です。なかでも副腎はもっとも大きな影響を受けている証拠があり、他のホルモンへの影響を示す証拠もあります。内分泌系、つまりホルモンシステムは全体が非常に精妙なバランスの上に成り立っており、一部が何かしらの影響を受ければ、おそらくそれはシステムの隅々にまで及んでしまうでしょう。」

母親の胎内でDESにさらされた女性が、思春期以降になって珍しい膣癌にかかってしまったという悲劇的な例を経験したがために、長い間、科学者たちはエストロゲンが発達に与える影響ばかりを研究してきた。

しかし、ノースカロナイナのEPA研究のアール・グレイ博士らによる画期的な研究は、一部の科学物質が男性ホルモンや、さらには他のホルモンの働きを阻害する可能性があることを明らかにするものであった。



ダイオキシンの遺産


 ダイオキシンという名前が特別なイメージを抱くのは、もっともな話だ。実験から、ダイオキシンはこれまでに生まれたもっとも危険な科学物質の一つであることが立証されている。毒素は砒素の1000倍とされる。100万分の一グラムでモルモットが死ぬ。科学者たちは一連の不幸な事故から、ダイオキシンが汚染物質として広範囲に存在することを発見した。
 
ベトナム戦争最盛期、アメリカ軍は熱帯のジャングルに、上空から数百万ガロンもの枯葉剤を散布した。熱帯雨林を枯らして隠れている敵をせん滅するのが目的だった。この枯葉剤は、二種類の除草剤、2・4-Dと2・4・5-Tを混合した強力な薬剤だった。このうち2・4・5-Tがダイオキシンに汚染されていることは誰も知らなかった。
 
ところが、退役した軍人たちが戦地から帰ると、癌の多発や生まれた子供の奇形などが、深刻な医学的問題が数多く起こった。2・4・5-Tが製造の過程でダイオキシンに汚染される可能性があることが判明した。汚染の程度は製造行程によって異なるが、ほぼ例外なくある程度のダイオキシンが含まれることが分かった。
 
実験室での研究は、ダイオキシンがいかに危険な物質であるか明らかにしつつある。米国環境保護局(EPA)は、ダイオキシンがこれまでに検査した中で最強の発ガン性を持つという研究結果を発表した。10年ほどの議論の末、FPAは除草剤2・4・5-Tを使用禁止にした。

PCBやDDTと同じく、ダイオキシンは極めて分解しにくく、「脂肪親和性」すなわち脂肪に解けやすいので、体脂肪に蓄積しやすい。その結果、食物連鎖をたどるにつれて動物の体内に蓄積し、人間のような連鎖の頂点にいる生物の体内には、非常に高濃度に存在する。

英国農水省(MAFF)は、食品と母乳に含まれるダイオキシン濃度を測定している。それによれば、ダイオキシンはあらゆる食品に低濃度で含まれ、特に牛乳のような脂肪分の多い食品では濃度が高い。 PCBやDDTとおなじく、子宮内や母乳経由で胎児や乳児の暴露を引き起こす。
 
最近の研究ではは、ダイオキシンが内分泌攪乱物質としても作用していることを明らかにした。

さらにグレイが最近発表した論文にある内分泌攪乱物質のリストは、多くの毒物が甲状腺や副腎の機能にも影響を及ぼす可能性を示している。


内分泌撹乱物質


1.環境エストロゲン(エストロゲンレセプター媒介)
メトキシクロル、一部のPCB類、リンデロンのβー異性体、O・P−DDTビスフェノールAなどのビフェノール化合物、オクチルフェノールとノニルフェノール、アルキルフェノール・エトキシレート

2.エストロゲン阻害化学物質
 ダイオキシン(高濃度でエストロゲンレセプターの働きを阻害)
 P・P−DDTとDDE(鳥類でエストロゲンの減少を促進)
 エンドサルファン(魚でビテロゲニン生成を阻害)

3.環境アンドロゲン、環境抗アンドロゲン(アンドロゲンレセプター媒介)
ビンクロゾリン(アンドロゲンレセプターと結合)、P・P−DDT

4.甲状腺ホルモン撹乱物質
 PCB類、ダイオキシン、PCDF、鉛、チオカルバミドあるいはスルホンアミドをベースにした農薬、PPB類、フタル酸エステル、ヘキサクロロベンゼン

5.副腎皮質ホルモン撹乱物質
 ビンクロゾリン及び関連の殺虫剤、アニリン染料、四塩化炭素、クロロホルム、o・p−DDT及びDDE、ジメチルベンゾアントラセン(DMBA)、メチルアルコールおよびエチルアルコール、窒素酸化物、PCB類、PPB類、ケトコナゾールなどの殺菌剤、トキサフェン

注意:これらの化学物質のリストは、ホルモンシステムに何らかの影響を及ぼす可能性があることを意味しており、人間に害を及ぼすレベルで暴露されていることを示すものではない。

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