O-157


本田武司 大阪大学微生物病研究所教授


一昨年、大規模な集団発生によって、その名が知られたO-157。感染すると、尿毒症や脳症などの合併症を引き起こすこともあります。予防するには、日頃からの衛生管理が必要です。



O-157とは


大腸菌は、もともと誰もが大腸内にもっている菌で、消化を助けるなどの働きをしています。しかし、一部の大腸菌は人間の体を攻撃して、食中毒を引き起こします。こうした大腸菌を総称して病原性大腸菌といいます。
病原性大腸菌は、5つの種類があります。O-157は、このうち腸管出血性大腸菌の代表格です。

O-157の感染源については、まだわかっていないことが多いのですが、アメリカでは、牛肉・乳製品が最も多く(約51%)、それ以外ではサラダ(約19%)、人から人へ(約12%)、飲み水・プールの水など(約12%)、アップルサイダーなどが挙げられています。

O-157の大きな特徴に、感染力が非常に強いことが上げられます。通常、食中毒の場合、100万〜1000万単位の病原菌を食べると発症します。しかし、O-157では、わずか数個〜数十個という少量の菌が体内に入っただけでも発症します。

このように感染力が強いため、通常では、食中毒にかかるのは汚染された食品を食べた本人だけですが、O-157の場合、食品を介さずともトイレの取っ手などを介して、人から人へと伝染することもあります。

また、通常の食中毒の原因は、胃を通過する際に、胃酸で殺されることが多いのに対して、O-157は、胃酸では殺されず、生きたまま小腸、さらに大腸に入り、大腸の壁に辿り着きます。

壁に辿り着いたO-157は、増殖する過程でベロ毒素という毒素を放出します。その毒素が、腸管上皮細胞を攻撃し、さまざまな症状を引き起こすのです。

病原性大腸菌の種類
腸管病原性大腸菌 この種類の大腸菌は、腸管上皮細胞の一部を変形させてしまう。変形した細胞は水分を分泌し、結果的に下痢が引き起こされる。
腸管侵入性大腸菌 この種類の大腸菌は、腸管上皮細胞の中に入り、細胞内の栄養分を奪い取るなどして攻撃し、下痢・腹痛などの症状を引き起こす。
毒素原性大腸菌 この種類の大腸菌は、腸管内で毒素を出し、その毒素が腸管上皮細胞を直接攻撃することで、嘔吐・下痢などの症状を引き起こす。
腸管出血性大腸菌 O-157に代表される大腸菌類。ベロ毒素を出し、特に出血性大腸炎を起こすもの。
腸管凝集付着性大腸菌 この種の大腸菌は、凝集しながら腸管上皮細胞に付着し、攻撃する。慢性の下痢が引き起こされる。

症状:初期症状  腹痛、下痢などが起きた後、血便が出る


O-157は、他の食中毒の原因菌と比べて、感染してから発症するまでの潜伏期間が長いのが特徴です。感染してからおよそ3日〜1週間は発症しません。

発症すると、まず腹痛と下痢が現れます。そのほか、熱やだるさなど風邪のような症状が起こることも、全体の約10%の割合で見られます。これらの症状は、一般的な食中毒によく似ています。

しかし、腹痛や下痢が起こって1〜2日後に、今度は血便が出始めるようになります。これは、O-157が放出するベロ毒素が、大腸の粘膜を傷め、大腸壁がただれて出血するために起こるものです。O-157による血便は、血液がそのまま流れ出ているような真っ赤な鮮血便です。この便は、他の病原菌による下痢とh明らかに違います。

これらの初期症状は、O-157に感染したすべての人に同じ様に出るわけではありません。ですから、疑わしい症状が出たら、すぐに内科や小児科など、医療機関を受診し、O-157によるものかどうか調べる必要があります。

以前は、医師の側にO-157に関する知識が不足していたせいもあり、O-157の診断はなかなか容易なものではありませんでした。しかし、現在は、O-157の知識が浸透し、検査法も発達したため、患者さんの便を採取して、わずか数分〜数時間で、O-157に感染しているかどうかを診断できるようになっています。

もし、どの医療機関にかかって良いのかわからない場合は、地域の保健所に相談するのも一つの方法です。



症状:合併症  重症化すると、溶血性尿毒症症候群・脳症などの合併症が起きる


O-157に感染して、血便など前に述べたような症状が出ても、ほとんどの患者さんは適切な治療によって回復します。しかし、中には重症化して溶血性尿毒症症候群(HUS)や脳症などの合併症が起こることもあります。

溶血性尿毒症症候群(HUS)


HUSは、ベロ毒素が血管内に入り込んで起こるもので、O-157に感染した患者さんに約5%の割合で見られます。多くの場合、次の三つの症状が同時に進行します。

1) 尿毒症(腎不全)

ベロ毒素が血管内に入り込むと、血液を介して体内のあちこちを障害するようになります。なかでも腎臓は、他の臓器よりも細かい血管がたくさん集まっているため、ベロ毒素の障害を受けやすい部分です。腎臓が障害を受けると、血液を濾過する働きが低下し、尿として体外に排泄されるべき老廃物が血液中に残ったままになります。これが尿毒症です。尿毒症が起きたら、緊急の治療が必要です。尿毒症の治療では、機能の衰えた腎臓の代わりに人工的に血液を濾過する人工透析が行われます。

2) 血小板減少症

ベロ毒素が、血液内に入り込むと、血管内側が傷つけられます。すると、血液が血管内をスムーズに流れなくなり、血液中の血小板(血球の一種で血液を固める働きがある)が集まって血栓(血の塊)ができやすくなります。その結果、血液中の血小板の数が減少し、出血を起こしやすくなるのが血小板減少症です。治療では、血小板輸血で血小板を増やす方法がとられます。

3) 溶血性貧血

ベロ毒素によって、血管の内側が傷つけられると同時に、血液中の赤血球も傷められて壊れてしまいます(溶血)。赤血球が壊れると、貧血が起こり、顔色が悪いなどの症状が現れます。治療では輸血によって赤血球を増やします。

4) 脳症

ベロ毒素が血液を介して脳に到達すると、脳症が起こることもあります。脳の血管や神経細胞が侵され意識障害などが起こります。HUSより低い頻度で発症しますが、命に関わることもあり、注意が必要です。脳症の起こるサインとして「ひどく頭が痛む」、「意識が遠くなる」、「けいれんが起こる」、「手足がしびれる」などの症状が見られます。

これらの合併症を防ぐには、O-157の感染を初期の段階で発見し、重症化する前に治療することが重要です。

また、合併症の起こる兆しが見られたら、すぐに救急病院などの医療機関を受診し、少しでも早い時点で症状が進行するのを止める必要があります。

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