遺伝子汚染を起こす地球環境問題


オゾン層の破壊で増える皮膚ガン


ヘヤースプレーを使うと皮膚ガンになる。といってもスプレーを吹き付けた部分がガンになるというわけでわない。皮膚ガンが増えるのは、ヘアスプレーに使用されているフロンガスによって、地球上の上空に存在するオゾン層が破壊されるためである。オゾン層が破壊されると、地球上に降り注ぐ紫外線の量が増加するので、皮膚ガンが増えることになる。

紫外線による発癌は人間だけではない。地球上のすべての生物が紫外線の影響から免れない。動物だけでなく植物も同じで、大量の紫外線を浴びると、生育が阻害され実を結ばなくなる。

多量の紫外線は、地球上のすべての生物にとって有害となることがわかっており、すべての生命にとって重大な問題であることだけは間違いない。しかしながら、それによってどのような事態が起こるか、予測は難しい。

フロンという物質は、塩素を含んでいるさらさらした液体で、揮発性が強いために容易にガスになる。フロンは喘息の治療にも使われるスプレーにも使われており、人体には無害である。事実、現在までのところ、人体に害を及ぼしたという報告は一例もない。

しかし、大気中に放出されたフロンは、分解されないで徐々に上昇し、3万メートルの上空でオゾン層を破壊する。

オゾンは薄い青色を帯びた気体で、もともとは人体に有害な物質である。つんと鼻を突く独特の匂いがあるオゾンは、地球上にはほとんど存在しない。光化学スモッグの一部として発生することもある。

しかし、成層圏にあるオゾン層は、人間の存在を保護する働きをしている。オゾン層はいうならばフィルターのような役割をしていて、太陽からくる有害な紫外線を大量に吸収している。このオゾン層というフィルターを経過したごく一部の紫外線が地上に降り注いでいる。地球の生物は、この適量な紫外線の下で生存している。

成層圏のオゾン層に達したフロンガスは塩素を放出し、紫外線の影響を受けてオゾンを分解する。フロンに含まれる塩素がオゾンに接触すると、三つの酸素原子で作られたオゾンは、酸素分子と酸素分子に分解される。

こうしたプロセスによって、塩素がオゾンを分解し続けると、やがてオゾン層が破壊されてしまうことになる。オゾンが破壊されるとオゾン層に穴があく。この穴をオゾンホールとよんでいる。

オゾン層の破壊に対して、はじめて警告が発せられたのは、1974年、アメリカのカリフォルニア大学のF・ローランドが発表した論文だった。そして、現実に南極の昭和基地でオゾン層の破壊が初めて観測されたのは、1982年のことだった。

人工衛星からのデータを分析した結果でも、1985年には、南極の上空にあるオゾン層が1979年の約40%に激減していることが明らかにされた。

フロンによるオゾン層破壊という新しいタイプの環境破壊は、次の二つの点で、私たち人類に新しい問題を投げかけているように思われる。

その一つは、人類の予測能力を遙かに越えた複雑なプロセスによって、環境破壊が起きる可能性があるということである。フロンによるオゾン層の破壊は、人類が未知の化学物質を利用するときには十分に注意しなくてはならないという教訓を示している。

もう一つは、人間の身体に直接は影響を与えない化学物質が、遺伝子を脅かしているという事実である。このことは、フロンによるオゾン層の破壊の本当の怖さは、この環境破壊が紫外線による遺伝子汚染を引き起こすということにある。

紫外線が遺伝子に与える影響は、かなり古くから知られていた。もし、オゾン層の破壊が進行し、より大量の紫外線が地球上に降り注ぐことになったら、人類は遺伝子汚染によって絶滅の道をたどることになりかねない。



酸性雨がもたらす遺伝子消滅


 1988年、アメリカ大統領に就任したばかりのブッシュ大統領は、カナダのマルルーニ首相と会談に臨んだ。このときのアメリカとカナダの首脳の論議は、政治や外交の問題ではなく酸性雨についてだった。
 
当時、アメリカとカナダが含まれる北米大陸では、酸性雨によって日本の九州に匹敵する3万6000平方キロを越える森林が立ち枯れで死滅しつつあり、湖沼の43%から魚の姿が消えていた。カナダだけでも、120万平方キロにわたる酸性雨の被害が進行していた。
 
ドイツでも森林の52%が酸性雨の被害を受けている。暗緑色のもみの木が繁るシュバルツバルト(黒い森)は、黄色い森と化しつつある。
 
ドイツばかりではない。チェコやスイスの森も酸性雨によって枯れつつある。オランダやルクセンブルクでも、森林の40%近くが被害を受け、特にオランダやスイスのスギやモミなどの針葉樹の被害は50%を越えている。
 
その他にもフランス、イタリヤ、オーストリア、スペイン、ポーランド、ハンガリーと、酸性雨の被害は、ヨーロッパの森林に広がっていて、ヨーロッパ全体の森林の14%が回復不能の状態になりつつある。
 
酸性雨は森林を枯らすばかりでない。そもそも酸性雨の原因は、雨を酸性にしてしまう空気中の物質の存在である。雨を酸性化する原因には、火山などによる炭酸ガス濃度の上昇や、海の近くで塩素化合物など自然的なものもある。
 
しかし、現在、私たちが直面している酸性雨の最大の原因は、石油や石炭などの化石燃料を燃やすとき発生する二酸化硫黄や窒素酸化物である。二酸化硫黄は工場からでる煙に含まれ、空気中で酸化されたり、雨雲の中で硫酸に変化するため、雨が酸性化する。
 
もう一つの窒素酸化物は一酸化窒素や二酸化窒素が代表的なもので、車の排気ガスから発生しているが、大気中で酸化されノックスと呼ばれる。ノックスの大部分は、車の排気ガスから発生しているが、大気中で酸化され水素と結合すると硝酸となり、酸性の雨を降らせることになる。
 
こうしたことからわかるように、酸性雨は一酸化窒素や二酸化窒素による大気汚染が引き金になっている。そのため、霧や雪でも、酸性雨とおなじような現象が起きる。
 
実は、酸性物質による被害は二つに分類される。酸性雨はその一つであり、ヨーロッパ中部型とも呼ばれている。もう一つは、冬季に降った酸性物質を含む雪が春になって解けだし河川に流れ込み、河川や湖沼を酸性化してしまう北欧型と呼ばれるタイプである。
 
特に流れの少ない湖沼の酸性化は非常に速いスピードで進行し、そこに生息する魚や貝などが死滅する。ノルウェー南部の5000の湖沼を調べたところ、1750の湖沼が酸性化によって魚が絶滅していた。
 
酸性雨による環境汚染をみていると、私たち人類は、どうやら遺伝子汚染と言った壁を越え、遺伝子消滅の世界に突入してしまったように思われる。生命が全くいない死の湖には、もちろん遺伝子もまったく存在しない。
 
遺伝子汚染のレベルなら、まだ解決する方法が残されているが、遺伝子消滅になってしまうと、人間の手ではどうすることもできない。科学技術の進歩がもたらした遺伝子汚染の進行は、いまや科学技術で解決できる限界を越えた遺伝子消滅をもたらしつつあるのかもしれない。



ハイテク汚染が引き起こす遺伝子汚染


 昔話に登場する桃太郎のおばあさんは、川に洗濯にいく。おばあさんが川に流した汚れは、川の中にいるバクテリアが処理して、川は再びきれいになる。このバクテリアの働きは自浄作用と呼ばれる。
 
実際、現在でも、多くの下水処理場は、こうしたバクテリアの働きを利用した活性汚泥法と呼ばれる方法で下水処理を行っている。活性汚泥法とはいうのは、下水にバクテリアを混ぜた活性汚泥を加えて、汚れた水中の有機物を分解させるという方法である。
 
しかしながら、バクテリアといえども、ありとあらゆる有機物を分解できるというわけにはいかない。一番苦手な有機物というと、人工的に合成された化学物質である。このことは当然のことである。
 
バクテリアは、地球上に生命が誕生したときから、何十億年という時間をかけて進化の道をたどり続けた生物である。そのため、バクテリアは地球上に存在する自然の化学物質なら、たいていのものに対応することができる。
 
バクテリアの仲間には、鉄や硫黄をエネルギー源にして生きているものや酸素が無くても生きていけるものまでいる。さらにカドミウムや水銀といった人間にとって猛毒の重金属を無毒化してしまうものさえいる。
 
しかし、こうした進化の古強者であるバクテリアさえ、この数十年という短い間に人類が進めてきた科学技術のスピードにはとても追いつけないようである。何十億年もかけて適応した自然の化学物質と違い、短い間次々と造り出されてくるさまざまな人工の化学物質には、さすがのバクテリアも歯がたたない。
 
現在問題になっている化学物質の一つは、トリクロロエチレンである。トリクロロエチレンは、ドライクリーニング、メッキ工場、半導体工場などで普通に使われている化学物質で、WHOによって発ガン性があることが指摘されている有害物質である。トリクロロエチレンには発ガン性のほかにも、中枢神経や染色体に対する影響があることが分かっている。

トリクロロエチレンなどの有機塩素化合物は、もともと自然界に存在しない化学物質で、人類が人工的に合成した化学物質である。そのため、土や水の中にいるバクテリアは、こうした物質を分解できない。
 
何十億年もかかって進化してきたバクテリアにとっても、人工的に合成され、突然自然界に登場した化学物質は苦手で、簡単には分解できない。
 
バクテリアが分解できないトリクロロエチレンなどの有機物質は、そのまま地下水に流れ込むことになる。下水処理場でも処理しきれないと、最悪の場合、飲み水として私たちの体内に摂取され、ガンを発生させることになる。
 
発ガン性のあるトリクロロエチレンは、いうまでもなく遺伝子汚染を起こす化学物質ということになる。
 
こうした遺伝子汚染を引き起こすトリクロロエチレンは、ハイテク産業にとっては重要な役割を果たし、私たちに経済的繁栄をもたらしてくれた。しかしながら、私たちはこうした豊かさの代償として、遺伝子汚染という取り返しのつかないものを手にしてしまったのかもしれない。



遺伝子に襲いかかるダイオキシン


 ポリ塩化ビニル(PCB)などと同じ有機塩素系の化学物質であるダイオキシンは、正式には「ポリ塩化ダイベンゾダイオキシン」とよばれている。この非常に強い毒性を持っているダイオキシンは、人類が創り出した最強の毒物ともいわれている。この猛毒のダイオキシンが農薬を合成するときや塩素を含むプラスチックやビニールを燃やすときに発生することが分かっている。
 
ダイオキシンが人体に取り込まれてしまうと、肝臓障害や胸腺の萎縮などいろいろな健康障害が起きる。
 
さらに恐ろしいことに、ダイオキシンには発ガン性と催奇形性といった有害作用があることが、これまで行われてきた動物実験によって証明されている。そのためWHOは、1997年2月、ダイオキシンの発ガン性について、これまでよりも厳しい評価を打ち出している。
 
ダイオキシンに発ガン性と催奇形性があるということは、ダイオキシンが遺伝子に対する有害作用を持っていることを意味する。ダイオキシンも遺伝子汚染を引き起こす化学物質だったのである。
 
こうした猛毒のダイオキシンが大気中だけでなく、土壌にも多く含まれていることが明らかにされている。ごみとして出されるプラスチックやビニールを焼却炉で処理するときに発生するダイオキシンによって、大気や土壌が汚染されるのである。ダイオキシンは、いまや地球環境問題として大きな課題となりつつある。

ダイオキシンの人間に対する影響については、ベトナム戦争における「枯れ葉作戦」でダイオキシンを含む大量の枯れ葉剤にさらされた、1545人のアメリカ軍兵士の妻を対象に行われた調査がある。その結果をみると、一般のアメリカ国民の妻と比較すると、枯れ葉剤にさらされたアメリカ軍兵士の妻の不妊、早産、流産、奇形などの発生率は15倍と明らかに高くなっている。
 
さらに、実際に枯れ葉剤を散布された南ベトナムチェンマイ省で行われたベトナム人の妻に関する調査をみると、流産の発生率は2.2-2.7倍も高く、奇形の発生率は13倍も高いことが分かった。

「あなたの遺伝子は汚染されている」
中原英臣・佐川峻     早川書房

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