遺伝子を操る遺伝子


人間もまた他の多くの動物と同じく、初めからその形で存在するのではなく、一個の受精卵から出発し出生を経て大人に発達して行くものです。
 
この発達過程は遺伝子が制御しています。ほとんどの遺伝子は蛋白質をつくるための情報を担っており、一個の遺伝子が一個の蛋白質に必要な情報を持っているのが普通です。ある遺伝子のスイッチが入っている。つまりオンになっていると、細胞はその遺伝子から情報を読み出してその蛋白質を合成します。

つまりその遺伝子にその蛋白質が暗号化されていると言います。遺伝子のスイッチが入っていない、つまりオフになっている場合にはその情報は使われていません。
 
数多くのある遺伝子の中には、その細胞が胚のどの部分に位置しているかを知るのに使われたり、あるいはその細胞群が腕になるべきか脚になるべきかなどを指定する働きをしているものもあります。どのような仕組みによって、遺伝子がそのような役割を実行できるかがいま解明されつつあります。
 
ほとんどすべての動物は、最初は接合子と呼ばれる細胞から始まります。これは配偶子とも呼ばれる精子と卵子とが合体してできたものです。接合子の遺伝子は、各配偶子から半分ずつ持ち寄ってワンセットになったものです。その遺伝子群が、何十億個という細胞を持つ動物体へ発達して行く過程をつかさどっているのです。動物が正しく出来上がるためには、胚の個々の細胞がそのおかれた位置を正しく読みとり、間違えずに発達分化して行くことが不可欠です。
 
ヒトの場合、接合子は約30時間後に二個に分かれます。この時点ではその二個は全く違うところがなく、たとえこの二個を引き離してしまってもそれぞれが完全な個体に発達する事ができるので、二個が同等であるといえます。一卵性双生児はこのような場合に当たります。

しかし、さらに細胞分裂が進むと胚の部分によって異なる役割を持つようになり、たとえばある細胞群は皮膚に、別の細胞群は筋肉にと言うように決定されて行きます。私たちの体には200種類ほどの異なった細胞種が有ると言われていますが、ほんとうはもっと多くの種類に区別できるそうです。
 
細胞が特定の役割に専門化してゆくのにしたがい、その細胞から個体全体を作り出す能力は消えてゆきます。この特殊化の過程を分化と呼びます。発生を理解することは、分化の制御の仕組みを解明することであると言ってもよいでしょう。
 
細胞が分化してゆくためには、多数の遺伝子を活性を変化させてゆくことが必要です。一人の人間を形作るためには、おそらく何万という遺伝子が必要でしょう。体のほぼすべての細胞種には遺伝子が完全なワンセットずつ備わっているのですが、個々の細胞で使われているのは一部の遺伝子だけであると考えられます。
 
細胞が果たすべき機能によって、どのような遺伝子をオンにするかが決まっています。たとえば、毛を作る細胞では毛の繊維蛋白であるケラチンの遺伝子がオンになり、他方いろいろな内分泌腺の細胞ではホルモンを作る遺伝子がオンとなる、という具合です。分化とは遺伝子発現の制御の問題であると言ってよいでしょう。
 
この過程の解明には、実はそれほど難しいものではありません。たとえば、ハウスキーピング遺伝子などのように、ひとまず考えなくてもよいものも多くあります。ハウスキーピング遺伝子とは、ほとんどの細胞で発現していて細胞が生きてゆくために必要な基本的機能、たとえば蛋白質合成のような機能を担っている多くの遺伝子を指します。このような遺伝子群は、分化の制御に直接は関与していません。
 
特定の細胞種に分化してゆくために必要な一群の遺伝子の発現を、別の少数の遺伝子が、直接・間接に制御していると考えられます。これをマスター遺伝子と言っています。そのようなものが実存する証拠は、ショウジョウバエの発生の研究から得られています。
 
ショウジョウバエが、卵から正確に発生してゆくために必要な遺伝子としては100個ほどが発見されています。我々ヒトではどうでしょうか。マスター遺伝子が制御していることはほぼ確実ですが、それがいくつぐらいあるのかはまだ分かっていません。


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