胃潰瘍


桑山肇(獨協医科大学教授)

胃潰瘍には、急性胃潰瘍と慢性胃潰瘍とがあります。急性胃潰瘍は、ストレスなどの原因を取り除けば治りますが、慢性胃潰瘍は完全に治療するには、ピロリ菌の除去が必要です。

種類と症状

胃潰瘍は、胃の粘膜に欠損(潰瘍)が生じる病気です。

通常、胃は食べ物の消化のために、胃酸やペプシンを分泌しています。胃潰瘍は、何らかの原因で、胃酸やペプシンが胃の粘膜までを消化してしまい、欠損(潰瘍)が生じた状態をいいます。

この発症の過程から、胃潰瘍は消化性潰瘍と呼ばれることもあります。粘膜が欠損すると潰瘍が粘膜の内側になる筋層まで達し、ひどい場合には、胃壁に孔が開いてしまうこともあります。

胃潰瘍には、急性潰瘍と慢性潰瘍とがあり、それぞれ症状や胃の粘膜の様子も異なります。

1. 急性胃潰瘍:急性胃潰瘍では、胃の痛み、胸焼けなどが突発的に起こります。また、ひどい場合には、一度に大量の出血を起こすこともあります。いきなり吐血して、胃潰瘍に気づくケースもあります。

2. 慢性胃潰瘍:慢性胃潰瘍では、胃や背中などの痛みが慢性的に起こります。特に、空腹時に痛むのが特徴で、夜中に痛みで目が覚めたりすることもあります。



原因

胃潰瘍が起こる原因も、急性胃潰瘍と慢性胃潰瘍では異なります。

1. 急性胃潰瘍:急性胃潰瘍では、風邪薬などの消炎鎮痛剤の服用や、精神的なストレス、アルコールの飲み過ぎなどが原因となって起こります。従来は、急性胃潰瘍の原因として、特にストレスが重要視されていました。しかし、実際は、薬物の服用やストレスによる急性胃潰瘍は、胃潰瘍全体の約1割でしかありません。

2. 慢性胃潰瘍:慢性胃潰瘍は、ピロリ菌の感染が原因になっています。ピロリ菌に感染すると、ピロリ菌が作り出すさまざまな物質によって、炎症を起こします。炎症を起こした部分にさらに胃酸やペプシンなどの刺激が加わると、胃の粘膜に欠損が生じ、胃潰瘍になるのです。ピロリ菌感染による慢性胃潰瘍は、胃潰瘍全体の約9割にも上ります。



慢性胃潰瘍までの流れ

胃潰瘍のほとんどは慢性胃潰瘍で、その原因はピロリ菌の感染によるものです。

しかし、ピロリ菌に感染した人すべてが慢性胃潰瘍になるわけではありません。実際、日本人の中高年では、70−80%の人がピロリ菌に感染していますが、その中で慢性胃潰瘍にまで進行するのは、やく2〜3%の人だけです。

また、ピロリ菌に感染したらすぐに胃潰瘍が発症するわけでもありません。ピロリ菌の感染は、多くの場合、幼少時に起こると考えられます。

ところが、慢性胃潰瘍の発症は中年以降、特に50歳代に多く見られます。つまり、感染から胃潰瘍の発症までには、数十年かかるということになります。この間に、ピロリ菌感染によって、まず慢性胃炎が起こり、そこから一部が萎縮性胃炎へと進行し、その中のさらに一部が慢性胃潰瘍へと進行することになるのです。



治療(対症療法)

急性胃潰瘍の治療では、まず、その原因を取り除くことが大切になります。しかし、それでも改善が見られない場合や、慢性胃炎の場合は、対症療法が行われます。対症療法には、内科的治療と外科的治療があります。

内科的治療

内科的治療には、薬物治療と内視鏡的治療があります。
1. 薬物療法:薬物療法では、具体的に次のような薬物を服用します。

1) 胃酸分泌抑制薬:胃酸の分泌を抑えることで、潰瘍を治りやすくします。対症療法の中心となる薬です。

2) 胃粘膜保護薬:胃の粘膜を保護するための薬です。

3) 運動機能改善薬:胃の活動を高めるための薬で、胃もたれなどの症状がある場合に用いられます。

2. 内視鏡的治療:胃の粘膜に出血が見られる場合などには、内視鏡的治療が行われます。先端に治療器具を付けた内視鏡を口から胃の中に入れ、出血部を特殊なクリップで留め、出血を抑えるものです。

外科的治療

外科的治療は、内科的治療を行っても出血が止まらない場合など、症状が重いときに行われます。

具体的には、開腹手術や腹腔鏡手術が行われます。
腹腔鏡手術では、腹部に開けた孔から、腹腔鏡(腹腔内を観察するための内視鏡)と手術器具を挿入し、胃の内部を観察しながら治療します。



治療(根本的治療)

慢性胃潰瘍の場合は、前述のような対症療法のほかに、ピロリ菌を除去する根本的治療が行われこともあります。

ピロリ菌が原因となっている慢性胃潰瘍は、対症療法を行っても、かなり高い率で再発が起こります。例えばH2ブロッカーという胃酸分泌抑制薬による対症療法だけを行った場合には、約8割もの患者さんが、1年以内に再発を起こします。

一方、ピロリ菌を除去する根本治療を行った患者さんは、再発率は大幅に低下し、その後、ほとんどが再発が起こらなくなります。

このことから、慢性胃潰瘍の治療には、根本的治療によってピロリ菌を除去し、再発を予防することが最も有効であるといえます。

ピロリ菌を除去するには、2〜3種類の抗生物質を1〜2週間、毎日(一日3回)服用します。この時大切なのは、きちんと服用を続け、中途半端な服用の仕方をすると、抗生物質に対する耐性菌が作られてしまいます。

また、抗生物質の服用によって、下痢などの副作用が出ることがあります。

ピロリ菌を除去するこの治療には、まだ健康保険が適用されていません。また、どこの医療機関でも、この治療が受けられるわけではありません。胃潰瘍の再発を繰り返していて、この治療を希望する場合には、消化器科のある医療機関で相談してみるといいでしょう。

ただし、ピロリ菌を除去する方法を行う場合でも、対症療法が全く不要になるわけではありません。まず対症療法によって、胃潰瘍に対する処置をきちんとしておくことが前提となります。

戻る


このホームページのホストは です。 無料ホームページをどうぞ!