食中毒


本田武司 大阪大学微生物研究所教授


これから夏に向けて食中毒がいちばん多い季節を迎えます。
「手を洗う」、「加熱調理をする」など衛生管理を徹底的に行って、食中毒を予防しましょう。



食中毒の現状と原因


食中毒の患者数は、日本でも、年間3〜4万人に上ります。この患者数は、衛生環境が改善されてきているにも関わらず、過去45年間でほとんど変化がありません。

一般的に食中毒というと、食べ物や飲み物、もしくは調理器具などについた細菌が原因で腹痛、嘔吐、下痢などの急性胃腸炎の症状を起こすものとして理解されています。

しかし、食中毒の原因は細菌だけではありません。食中毒とは、正確には「食品、添加物、器具もしくは容器包装に起因する健康障害」のことをいいます。ですから、毒キノコやふぐなどの「自然毒」、メタノールなどの「化学物質」が原因となることもあります。

症状も、急性胃腸炎による下痢や嘔吐だけでなく、さまざまなものがあり、発声障害などの神経麻痺が起こることもあります。また、まだはっきりした数字は出ていませんが、1年ほど前から、「SRSV(小型球形ウイルス)」などのウイルスも、食中毒の原因として扱われるようになりました。

それでもやはり、食中毒の一番の原因は細菌です。現在、16種の細菌が食中毒の原因菌として知られています。1996年の厚生省の統計では、食中毒の原因として、第1位がサルモネラ属菌、次いでO-157を含む病原性大腸菌、3番目に腸炎ビブリオとなっています。



種類と症状


細菌性の食中毒は、原因となる細菌によって、それぞれの起こり方や症状が異なります。
具体的には、発症の仕組みによって次のように分類できます。

1) 感染侵入型

感染侵入型は、細菌に汚染された食品を食べることにより、腸管に辿り着いた細菌自体が腸管上皮細胞(腸粘膜のいちばん表面の細胞)に入り込み、症状を引き起こすものです。
このタイプの食中毒を起こす代表的な細菌にサルモネラ属菌があります。

「サルモネラ属菌」

肉や卵が汚染されることがあります。卵の場合、黄身や白身も汚染されることがありますので、殻だけ洗っても食中毒は防げません。
この菌による食中毒の主な症状は「発熱」です。たいてい、汚染された食品を食べてから10〜72時間くらいで発症します。そのほか、「腹痛・粘血便」などの症状があります。

2) 感染毒素型
   
感染毒素型も、細菌に汚染された食品を食べることによって、起こる食中毒です。
  
ただし、このタイプでは、細菌自ら腸管上皮細胞を攻撃するのではなく、細菌が腸管の中で毒素を出し、この毒素が腸管上皮細胞を攻撃することによって、症状が引き起こされます。
感染毒素型の主な原因菌は、腸炎ビブリオやO-157などの病原性大腸菌があります。

「腸炎ビブリオ」

海産の魚介類に含まれることが多い細菌です。
この菌による食中毒では、汚染された食品を食べてから5〜20時間程度で発症します。「下痢、腹痛、発熱」などが主な症状として現れます。

「病原性大腸菌」

大腸菌は、通常、人や動物などの腸管に住みついて、消化を助けます。
しかし、なかには食中毒を起こすものがあり、それらを病原性大腸菌といいます。
病原性大腸菌には、さまざまな種類があり、菌によって発症の仕組みや出てくる症状も違います。
例えば、病原性大腸菌の一種であるO-157に感染すると、3〜7日で「腹痛、下痢、血便」などの症状が起きます。

3)生体外毒素型

生体外毒型は、細菌そのものに感染するというよりも、細菌が食品内で出した毒素によって汚染された食べ物を口にすることで、引き起こされるタイプの食中毒です。
生体外毒素型の主な原因菌は、黄色ブドウ球菌やボツリヌス菌があります。

「黄色ブドウ球菌」

人の鼻や喉に住みついている菌です。鼻の周辺に触った手で調理したり、唾液が飛び散ったりすることで、食品に移り住みます。
黄色ブドウ球菌による食中毒は、汚染された食品を食べてからわずか3時間あまりという短時間で、症状が出るのが特徴です。
主症状は「嘔吐」で、このほか「下痢、腹痛」が現れる場合もあります。

「ボツリヌス菌」

この菌の特徴は、酸素のない状態でしか増殖できないことで、嫌気性食品といわれる、真空パック製品や缶詰、瓶詰めんどを好みます。特に、自家製の缶詰、瓶詰めには注意が必要です。また、いずしやふなずしなどの発酵食品にも好んで住みつきます。
この菌による食中毒は、汚染された食品を食べてから10〜40時間くらいで発症します。
ただし、腹痛や下痢などの消化器症状はまったく現れず、物が二重に見える「複視」、声が出にくくなる「発声障害」、物が飲み込みづらくなる「嚥下障害」、または「呼吸障害」などの神経麻痺症状が起こるのが特徴です。



対応


食中毒の症状が現れた場合、まず家庭で注意すべきことは、水分補給です。下痢や嘔吐、発熱が原因で脱水症状に陥りやすくなるためで、適当な塩分、糖分を含む物を飲むようにします。梅干しを入れた重湯やスポーツドリンクなどがよいでしょう。

また、嘔吐が見られる場合、嘔吐した物が気管に詰まって窒息したり、肺に入って肺炎を起こすこともあるので、横たわるなどして掃き出しやすい体位になることが必要です。

また、疑わしい症状が見られたら、勝手な判断をせず、すぐに保健所に相談したり、内科や、子供の場合は小児科などの医療機関を受診しましょう。なかには、ボツリヌス菌などのように呼吸障害を起こしたり、O-157のように人から人へ伝染するなど、早急な治療を要するものもあるからです。

食中毒が起こりやすい季節は、細菌の活動が活発になる夏です。しかし、最近は、暖房の普及や、熱帯・亜熱帯地方からの輸入食品の増加で食中毒の季節性は薄れてきました。

また、食中毒の原因になるウイルスも挙げられるようになりましたが、ウイルスが活発化するのは冬です。ですから、夏だけでなく、一年を通じて常に食中毒に気を付ける必要があります。
特に、日常生活の中では、次のような衛生管理を徹底しましょう。

1) 新鮮な食品を購入する:衛生的な店で新鮮な食品を購入することが大切です。また、生ものは買い物の最後に購入し、すぐに冷蔵庫へ収納しましょう。

2) 冷蔵庫を過信しない:冷蔵庫内の温度では細菌は死にません。ですから、冷蔵庫を過信せず、食品の長期の保存は避けましょう。

3) 加熱調理する:加熱することで多くの食中毒の原因菌は死にます。食品の中心部が最低でも75度の状態で1分間以上加熱されるようにしましょう。

4) 二次汚染に注意する:まな板やふきんなどを常に清潔にしておくことで二次汚染を予防できます。

5) 手洗いを励行する:特に食前やトイレに行った後などは、かならず手を洗うようにしましょう。石鹸を付けて1分間位を目安に丁寧に洗いましょう。
体力を付ける:一般的に、子供や高齢者などは、抵抗力が弱く、食中毒にかかりやすいといわれています。また、胃の疾患をもっている人は、殺菌の働きをする胃酸の分泌が少なくなりがちです。このような人は毎日の衛生管理と同時に、過労を避け、体力を付けておくことも大切です。

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