C型慢性肝炎の臨床


久留米大学名誉教授 谷川 久一


我が国でみる肝疾患のおよそ90%が肝炎ウイルスによるもので、しかもその80%以上がC型肝炎ウイルス(HCV)に関連するものである。したがって、我が国における肝疾患診療でHCV対策が最も重要な課題であることが理解される。

輸血によりHCVに感染してから、肝細胞癌にいたる年月は、私どもの調べではおよそ平均25年であり、我が国でHCV関連肝細胞癌が増加し始めたのが1975年前後であることから、我が国でHCVの感染が増加したのは終戦後ということになる。


HCVにいったん感染すると、成人例であってもその60〜80%に持続感染が成立し、多くは進行性で慢性肝炎・肝硬変・肝細胞癌に進展する。


C型肝硬変では年間7%、C型慢性肝炎では1〜2%に肝細胞癌が発生してくる。我が国における肝疾患死亡をみてもわかるように、現在では肝硬変の合併症、すなわち食道静脈瘤、肝性昏睡、腹水などで死亡する人は激減し、年間肝疾患死亡4万人のうち3万人は肝細胞癌による死亡である。


このような見地からみると、たとえ患者が慢性肝炎であっても、その患者が将来、肝細胞癌で死亡する可能性が高いことを考えて、患者に接し、診断治療を心がけなければならない。


さてC型慢性肝疾患から肝細胞癌が発生する大きな要因は二つある。その第一はHCVの直接的な作用で、近年HCVのcore蛋白のtransgenic mouseから肝細胞癌が発生がみられたという報告のあることからもわかるように、HCV自身が肝細胞のDNAに影響を及ぼして、直接発癌の原因をなしている可能性がある。これはC型慢性肝炎においてインターフェロン(IFN)によりウイルスの排除に成功した患者からは、私どものデータでも発癌はみられていないことからも明らかである。


第二の要因は、合併している持続炎症である。すなわちHCV感染によりもたらされた肝炎が肝細胞の壊死、再生を繰り返す過程で肝細胞のDNA遺伝子の不安定性を生じ、発癌を助長するのではないかという点である。この点については、IFN治療でたとえウイルスの排除に成功しなくとも、血清ALTが正常化ないしは低下した例からは発癌が少ないという事実で、私どもの成績も同じである。


B型肝炎ウイルス(HBV)による慢性肝疾患では、経過とともに感染ウイルスの量も低下し、炎症も沈静化するものが多いが、C型のものでは肝硬変になってからも感染ウイルス量が変化せず、炎症も肝硬変においても著明で、これがB型肝硬変の組織像と違う所見である。


このような点から、HBVによるものに比べてHCVの発癌性が高い理由が理解されるが、いずれにしても感染ウイルスの排除が第一である。しかるにIFNのresponderがおよそ30%で、この成績を改善せしめる手段として、IFNにribavirinの併用が試みられている。諸外国の成績では感染ウイルス量が多い症例であっても有効であるという報告があり、我が国でもその知験が始まっている。


第二に合併している炎症を抑制する手段として、やはりIFNが第一にあげられるが、この投与で不成功例のものであっても、ミノファーゲンC、ウルソ、小柴胡湯などの投与で炎症を抑える努力は意味のある方法と考えられてきた。


現在の私どもの大きなテーマは肝硬変におけるIFN治療であり、一般には割合としてresponderは少ないが、この成績の向上とIFN治療の意味づけを明らかにする点である。


もう一つC型慢性肝疾患の治療で注目する必要があるのは、肝の鉄沈着の問題である。この鉄沈着は一般に肝疾患が進展するにつれて著明にみられる傾向であり、したがってIFNの効果も鉄沈着例では低いが、このようにIFNに対してno responderのものであっても、瀉血することにより血清ALTの低下をみることがある。

正常肝ではたとえ鉄沈着があっても血清ALTの上昇がみられることはまれであるが、HCV感染細胞では鉄沈着があると、肝細胞変性壊死がより容易に起こるのかもしれない。その機序として鉄沈着によるfree radical産生があげられるが、私はこの鉄沈着も発癌に関わる重要な因子と考えている。

周知のごとくヘモクロマトーシスでは肝細胞癌の合併が多いことが知られているが、C型慢性肝疾患の経過中にみられる肝の鉄沈着にも注目して治療に当たることが重要である。