
もうすぐブチャラティが娘、トリッシュを連れて、この教会の鐘楼を登ってくる・・・もうすぐ・・・・
「これでわたしの正体を知るものは、この世に1人も居なくなるのだ。ああ、目出度い!!なんていうか、こう、ハナ歌でも歌いたくなる気分っていうのか、あと少しで1万ピースのジグソーパズルが完成する瞬間のような、高揚した気分だ。いや、いけないイケナイ。こういう浮かれた気分の時こそ、足元をすくわれてしまうものだ。気分を沈めて・・・そう、あと少し、あと少しでわたしの悩みも解決する・・・・」
まるで動物園のクマのように、落ち着き無く鐘の回りをグルグルと回っているボス。落ち着きを取り戻す為、歩くのを止め、立ち止まろうとして自分で自分の足を踏んでスッ転ぶ。
「えっ!?」目の前に大きな鐘
「あっ!!!!」頭から鐘に突っ込んでいく
「キング・クリムゾン!!」
時はスッ飛ばされた。鐘への衝突は回避され、からくも体勢を立て直す、ボス。
「あぶないあぶない。・・・・しかし我ながらどーにかならんかこの性質。歩けば転ぶ、人に会えばカモにされる、部下はスキあれば裏切る。一寸先は闇のついてない人生・・・・ツイてない。ほんとおおおうについてナイ!思えば15年前、あの時がそもそもついて無かったのだ・・・・(ボス回想)」
場面は15年前・・・正しくは15年と9ヶ月前・・・南の島サルディニアは、若者が「アバンチュール」を求めて集う観光地、日本で言えば、あの伝説の『新島』のようなフリーセクスの楽園であった。
「おい、ドッピオ!お前まだ、済ましてないのかよ。だらしねーなあ。ここに来るオンナなんてよお、ヤッて欲しくって来てるんだぜえ、みんな承知の上の「リゾ・ラバ」なのさ。後腐れもへったくれもねえから、どんどん引っかけて片っ端から食っちゃえばいいんだぜ。」
そう言ってる友人は良く日焼けした身体に金のネックレス、シャツの胸ぐらを大きく開け、これ見よがしに肉体を誇示した『反町隆史』風のイケイケ兄ちゃん達だった。
対するドッピオはよれよれのTシャツにオーバーオール姿の、ソバカスだらけで貧弱な、どう見ても童貞そのもののダサい、イカの匂いがしそうな少年だ。
「いいよ、解ってるよ、今年こそはキメるぜ。卒業して見せるって・・・・そう、今までのオレを卒業するんだ・・・・」
ごそごそと、島一番の流行に敏感なブティックで買ってきた服を紙袋から取り出し、着替えるドッピオ、ボサボサの髪を美容師志望の友人が器用に編み込んでくれる。
「コレでだいぶイケるぜ。あとはオメー次第だ、しっかりヤレや。」
「う、うん。有り難う。」
「そうだ、コレ使いな!!コレが無いとせっかくの『思い出』もだいなしだぜ。」
そう言って友人の渡したものは、一箱のコンドームだった。
「使いかけだけどよ、オレからのはなむけだぜ!!」
「あ、有り難う!!」
小さな箱を胸に抱いたその顔は、期待と興奮で真っ赤に上気していた。
「果たしてはその夏、イタリア本島から来ていた娘と恋に落ちた・・・いや、恋なんてマトモなもんじゃ無い、わたしにとってはただ「ヤリたい」だけだった。しかしわたしはまだ未熟で、相手をうまく見極められ無かったんだ・・・彼女は『リゾ・ラバ』目当てにやって来た、浮付いたバカ娘なんかじゃなかった。何にも知らずに観光でやって来たウブでマジメな女の子だった。彼女はきっと・・・わたしの言葉を信じ、わたしの行為を『愛』だと信じていただろう・・・それが悲劇の始まりだったのだ・・・・(再び回想)」
オレはナンパの成功を報告しに友人のたむろする町のゲーセンに駆けつけた。昨夜は目くるめく夜を過ごして、今朝は彼女と『カーラ・ディ・ヴォルペ』でデートして来た。モチロンまずい事になったらヤバいってんで言われたとおり、本名も住所もウソついて来たけれど、けっこういい子だから、みんなに紹介して羨ましがらせてやりたがった。
で、彼女に「ちょっと待ってて」と言い残して、ここにやって来たんだ。
「ヒャッヒャッヒャッ!!見たかよ、あんときのアイツの後ろ姿、すっ転びそうになりながらも、オレの持たせたスキンを後生大事に抱えて走って行きやがったぜ!」
「バッカだよなあ、使いかけのコンドームの箱なんかもらってよお、全然疑ってねえのな。」
「まったくだぜ、アレって一つ残らず袋の外から針で穴開けて有ったのによお、あんなもの信用して使ったひにゃ、まず間違いなく妊娠しちまうぜ。」
「そうそう、アイツのは15年溜めに溜めた『濃い』ヤツだからよおおっ!!」
ヤツらの言ってる事はまさに!オレの事だった。オレは目の前が真っ暗になった。
彼女が本当に妊娠していたら・・・・・オレの人生はおしまいだ。おまけにオレはこの友人らに心底バカにされていたのだと初めて知った。怒りと絶望が身体を駆け巡り、頭の中が真っ白になった。その後はよく覚えていない・・・・ただ
それっきり、オレは島を出た。彼女とも2度と会わなかったし、家族も捨てた。あいつらは・・・・記憶の断片を合わせると、どうやらオレは復讐を遂げたらしい・・・・服が血まみれになっていた。どうやったかは覚えていないが、きっとあれが我が『キング・クリムゾン』の発現の時だったのだろう。
ともかく、オレは島をでて、逃げた。過去から、そして「本当の自分」から・・・・・
「とうるるるるるるるるるる、とうるるるるるるるるるるるるっるん、るるるんるん」
「おや、ドッピオからだ、カチャ。もしもし・・・・ああ、今から大事な仕事だから・・・・そっちからかけたりするなと日頃から言って居るだろう?何?真っ暗な所に一人ぼっちにされて淋しい?心細い?おお、わたしの可愛いドッピオよ、心配しなくていい。この仕事が終わったらまた、おまえを解き放してやろう、わたしの可愛いドッピオよ・・・・そしていつまでも
『永遠の青春』を楽しむがいい・・・お前はいつも、あの日のままだ。」
携帯電話をしまい、エレベーターの方に向かうボス。その横顔には自信とこれからする「仕事」に対する弱冠の緊張感が漂っている。
「やっぱり、ブチャラティにも、わたしの正体を見せるのは避けた方がいいな。わたしの正体を知るものは・・・・わたしも良く知らないうちに『始末』されたりする事があるからな・・・・しかし、わたしのスタンド「キング・クリムゾン』のやる事には間違いは無いのだ。この道の先には、必ず栄光がある・・・・たとえそれが血塗られた物であったも、わたしに安らげる家庭も、家族も無くても、わたしには『キング・クリムゾン』とドッピオさえいればいい、それが15年前のわたしが選んだ道なのだから。わたしの道の前に立ちふさがるものは許さない、ただそれだけが、ルールなのだ。」
そういってボスはエレベーターのドアをキング・クリムゾンの馬鹿力でこじ開け、闇の中に消えた・・・・
そして鐘楼の鐘だけが、彼の後ろ姿を見ていた。
《END》