第四話 

  人間はなかなか死なないようにできている。

 


 自慢にはなりませんが私は今まで骨折したり怪我をして病院で縫って頂いた回数は数知れず、乗用車で後ろから三回転半まわりしながらガケからおち横向きに着地した超ウルトラCなど人のやらない事はたくさんやってきました。経験からいえることは何度か死にかけるような体験をした場合、空中に身体が浮いているときでも結構冷静に次の行動に備えれるとバカみたいな自信もできてくるものです。

 もう二十年くらい前になりますが私はサーフィンに凝ってまして真冬の福島の小名浜の海岸まで行き沖で波待ちする間、雪がサーフボードの先に積もるまでやりました。身体が凍りつき浜辺から聞こえる有線放送なのか「与作」の演歌を聞きながら寂しくなり「なんでこんな所まで来ちゃったんだろう?だから湘南でやろうっていったじゃないか」と福島の友人に文句を言うと彼は白髪になったのでは?と思えるくらい雪で真っ白になった髪で「きっと今日は大波が来るんだってぇオッレっちのじいちゃんが言ってたんだから」という彼のいうとおりしばらくして本当に来たんですねえ〜大波が。それも壁のように高い波が、突然だったもので身体も凍りつき動かず洗濯機でフルタイムゆすぎまでやられたくらい水の中で掻き回されお腹がタプタプになるほど水を飲み寄せては返す鬼のような波でどんどん沖にひかれもう絶対死んだと思いましたね。もうそれから冬の海はこりごりで今でも「与作」を聞くと条件反射で「やめてくれ〜」と叫びたくなるほどでした。

 フツウはそこでサーフィンなんか止めてしまうんでしょうが懲りない、また同じ失敗を繰り返すのが幼少の頃から現在まで続く私の持って産まれた性分で次の夏に九州の実家に帰った私は台風で大波注意報が出ている玄海灘に喜んで出かけました。湘南の小さな波になれた私には夢のような高い波がそれもセットで40M間隔で来るため感激して地形も確かめず飛び込みました。20分くらい楽しみ「あ〜あ!幸せだなあ毎日台風が続けばいいのに」とバチあたりのようなこと言ってましたら突然ガツンとすごい衝撃で何かにぶつかり頭を打ちまた洗濯機の中ですすぎ洗いをされる状態で一瞬気絶しました。運がよかったのはサーフボードにはコードがついており撥ね飛ばされたボードがコードでもどってきて私の額をぶち割って意識がとりもどせました。「どこにいるんだろう?」と周りの岩をみるとなんと2M以上あるテトラポットの中に私はおり波がくるたびすすぎ洗いをされていることが分かりました。テトラポットにはフジツボさんがたくさんついており痛くてしかたがないのですが思いきって波と一緒に飛び上がりやっとテトラポットから脱出しました。

 砂浜まで必死の思いで泳ぎ着き頭に手をあてると血だらけなのに不思議と痛くなく人っこ一人いないその浜辺を歩き救急車をよぶための電話を探したのです。しばらく歩くと漁師の方がいて網を直していたのでホっとし「すんまっせんがケガしたんでお医者さん呼んでもらえんでしょうか?」とお願いすると彼は「オマエだろうが!いつもワシのかけた網を切るバカは。死んでしまえ!おまえんごつあるヤツは」と言い必死で違うという私の言葉も聞き入れられずまた街まで40分歩きました。

 やっと着いた病院に行くと酔っ払った先生がおり「ほう〜なんばしたとか?ぎょうさん血ぃだして」と言いながら「おまえは運がよかぞ。本当は今朝釣りに行こうと思っとったバッテンが台風がくるちゅうんで止めたとよ。おまえは俺を命の恩人と思わないかんぞ」と長々恩着せがましく言われ「分かりましたから早く治療してもらえませんか?血も止まらんし、なんかズキズキしだしたんで」と言うと「女々しかヤツね、ほら酒でも飲め。大丈夫ってここまで歩いてこれたんやったら、海やけん塩水で消毒しとっとだけん。じゃあ髪の毛を剃ろうかね。言うとくバッテンがワシは産婦人科やけんな」と言いながら眉毛半分と髪の毛の後頭部をカッパみたいに丸く剃って「マンガみたいやのう」とゲラゲラ笑いながら写真を撮られ結局35針頭だけで縫われました。まったくなんちゅう医者なんだろうと不満もありましたが死ぬよりましかと後で考えなおし、その後5ヶ月は街を歩く人たちに笑いと話題をあたえあれだけ好きだったサーフィンも止めました。

 しかし今年の夏行く予定のブラジルの海はサーフインの世界大会が開かれる有名なビーチで今からウズウズしてしまい腕立て伏せをやって燃えている私に妻が何のため?と訊ねるので、今までのサーフィンにたいする思いと、この夏またカムバックしたい旨伝えました。そうすると妻は「あんたバカよ。38歳にもなって何言ってんの?車でみんな行くんだからもしあんたが死んだら誰が帰りに運転するのよ。私、運転は嫌よ片道1800KMもあんのに」ととても愛情に満ち溢れた物言いをしてくれその優しさにワタシは目頭を押さえました。悲しいな〜ラテンの人に男のロマンが伝わらないなんて、もうちょっと結婚考えるんだったな。

 


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