第二十四話 

 なんでも大丈夫!と答えちゃうのが南米流。


  南米に住むようになって最初に思ったのは、果たして出来るのだろうか?というような難しそうな事でもいとも簡単に「大丈夫俺に任せろ」と答えてくれる人達が多いのです。

 あれは、もう十何年も前のことですが私が日本から持ってきてとても気に入っていたダイバーズウオッチの電池が無くなったので、SEIKOと大きな看板のある修理屋さんに持って行きました。その店主と思われる職人気質の顔をした人に電池を替えてくれと頼むと彼は「おお〜SEIKOか、いいなあ300メートルも潜れるのすごいな日本製って」と興奮しながら裏蓋を開け出しました。しばらく店内の時計を眺めた後そのオジサンのところへもどると何と彼はネジをとるだけとって中身をばらしているのです。「オイ何やってんだよ、やめろよ!電池替えるだけでいいんだよ壊したらどうすんだ高いんだぞ」と叱れば彼いわく「大丈夫だ。おれはもう三十年時計屋やってる。今まで直せなかった時計は一つもない、安心しろメンテナンスしてやってるんだ」と自信に満ちた表情で威厳があり、旅先だったこともあり海岸で泳ぐためにきた私は少々急いでおり「分かったから早くやってくれ」と頼みました。それから彼は{へえ〜}{うんうん}などとつぶやきながら中身を入れていき電池も新しいのに替えてフタを閉めようとしました。

 「待て!お前まだ部品が残ってんじゃないか。ネジだってそこにまだあるぞ」と慌てて怒鳴れば「フン、いらないんだよこんなの。見てみな動いてるじゃないか、ほら〜」と私に時計を見せるのです。私は「動いていてもダメだ。ちゃんと元にもどせバカヤロウ」と言えば彼も怒り出し「これはなあ、コレステロールと同じで時計にとってはいらない部品なんだよ。」と答える始末で私が「とにかく入れろ、元あった個所にネジを入れるんだ。お前もしかしたら、どこにあったか分からないんじゃないか?」と追求すると途端にひるみ「そうだよ、分かんねえよ。何なんだ日本の時計は小せえネジばっかでよお。必要ねえよこんなにいっぱいネジなんか」とブツブツほざき呆れた私は「もういいお前に頼んだ俺が馬鹿だった。いいかこれから俺は海へ行って泳ぐんだから力いっぱいフタを閉めろ余った部品は袋にいれるんだ」と怒りながらホテルにもどり 久しぶりの海で泳ぎ悪夢のような出来事を忘れようと急いで沖へ向って泳ぎ出しました。30秒くらいたったでしょうか?腕につけたダイバーズウオッチを見れば秒針が水をかきわけるように辛そうに動いており、やがて半分くらい水で一杯になったとき私の時計はピタっと針が止まり哀れにも旅先でそのはかない命を閉じました。

 もう怒りで頭の血管がきれそうになり濡れた体も半渇きのまま時計屋に行けば、店主は時計を見るなり「もうだめだ死んでる。運がなかったと思い諦めるんだな、しかしひどいな。SEIKOは立派はブランドなのに偽物だったんだな」とほざき私が「お前なあ日本にゃ偽物なんかねえよ!お前が壊したんだ、覚えてろよ来週日本に行くからすべてを明らかにしてやる」と捨てゼリフを残し彼から哀れんだ顔で{可哀相なヤツ}と見送られ情けないやら、泣きたい気持ちで一杯でした。

 その後私は仕事で日本へ行き銀座のSEIKOまで時計を見せに行ったところ「お気の毒ですが、どうにもなりません300M防水は指定された修理店でしか電池交換できないので保証対象に入りません。しかしこのうら蓋は誰が閉めたんですか?機械で閉めたのでしょうか、すごい力ですよパッキンが破れてますもの。はじめて見ましたウウンすごい」などと変なところで感心され、もうグターと力が抜けました。

 やれないのなら無理と言えばいいのに親切な(こういうのは迷惑な優しさですよ)南米人はできないと言えない。「ノーアイプロブレマ」(問題ない)「トランキーロ」(安心してよ)と言って相手から感謝されたいのか、本当に安請け合いする人が多いです。日本のように「考えさせてください」「たぶん無理かと思いますが」とは決して言わない人たちなのです。

 このような話になれば車や電気製品なんでも同じような話はたくさんあります。でもそれから修理するために日本へいろいろ送りましたが、その頃の日本は「これなら修理するより新しいものを買ったほうが安くつきます」とか「直るかもしれませんが保証できません。申し訳ありませんが他にあたってください」などとタライ回しにされ結局あきらめ、こちらで恐くて現場をみれないような荒っぽいやりかたで直されたりすると、案外ここの{あたって砕けろスピリット}のほうがスリルがあって楽しいなと近頃ここの修理工を見直しているのです。でも現在の時計は当地で買ったCASIO製ダイバーズウオッチ8ドルの安物(本物かなあ?)しか使いません。しかしこれが持つんですよね電池も5年替えてないし水も入らない。(当たり前か)私も近頃ではお客様に対して大丈夫を連発しており、ちょっとまずい傾向かもしれないと今日キーボードを叩きながら反省してしまいました。    


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