第四十六話 

 南米の男は車が大好きです。


 南米に住みだして最初にまず感心したのは誰でも必ず自分で車を直してみようとする、もっと正確に言えば最終的に無茶苦茶にしてしまったとしてもその結果を恐れずに、まずはボンネットを開けて中をいじくってしまうという事でしょうか?日本ではまず余程メカに強い方以外はボンネットを自分で開けて工具を使って修理しようなんて事は考えないと思うのですが南米では道で動かなくなった場合だいたいどこからともなく人が現れ(俺にまかせろ)とばかりに「工具はあるか?」と助けに来てくれるようです。

 どういう状態か?近頃しょっちゅうこの手の問題があったのか?などと熟練工を思わす風貌のパラグアジョに私はワラをもすがる思いで状況を説明すれば彼はたった一つのサイズのスパナで器用にも隙間にドライバーを入れサイズ微調整しながらどんどん部品をはずし解体していくのです。「貴方の職業って修理工なの?」という私の質問に彼は「俺は牛の屠殺場で働いてんだ。」と答えられ(ううん、そういえばこいつの目つき血走ってんなあ。いやあ失敗したぞう熟練工って牛の解体かあ・・・)と自分の見こみ違いにウンザリしながら不安な気持で横で見守っていたのです。棒で叩いたり穴に雑巾つっこんでふいたりチューブを口に入れてすいこんでゲボゲボ咳き込んだりする彼の自動車工学的には全く根拠の無さそうな働きぶりを見つつ次第に(ああぁなんてヤツにまかせてしまったんだろう・・でもこの辺電話は無いし車やさんも無いだろうな)と反省と自責の念がつのりだんだん胃が痛くなってきました。

 1時間以上たったころには近所の村中の方も集まりだし評論家ならびに長老とも思えるような方達の意見もグアラニー語のみで交じわされ全く「この車の所有者は私」ということも忘れるくらいあらゆる個所より各々の手が伸びボンネット中をいじくられまくるのです。この不安な気持と今更やめてと言えない複雑な状況をどう説明すればよいのか分かりませんが手術中に全身麻酔が切れて自分の腹が開けられ主治医じゃないインターンの医者の卵が仮試験で手術しているのを見てしまったような気分と言えば分かって頂けますでしょうか?やがて少々元あった場所とは違う個所に部品は納まり何度もスロトッルを回しやりなおすうちバッテリーがなくなったのかヒュルヒュルと頼りなく木枯らしのような音になるころなんと、エンジンがかかるんですね〜感動でした。今まで疑ってごめんねキミの事は信頼してたよとワケの分からないお礼を言いながら「ところでどこが悪かったんだろうか?」と私は訊ねたのですが彼は「よく分かんないんだよね。どこか触ってりゃあ大体車って動くんじゃねえの?」と答えるばかりで(動くうちに早めに街の修理やさんまで行かなきゃ)と慌ててお礼をし急いでその場を去ったのです。

 それと他にこの国が誇れるものとしてパラグアイの板金工の技術は世界一だそうです。町中にはフォルクスワーゲンのかぶと虫の車にトラックの荷台つけた改造車やら不思議な形をした車がたくさん走っておりそれを見た日本から来ていた修理工場の経営者は「すっごい技術だな。日本では絶対許可おりないけど・・」と手放しでその技術を賞賛していました。彼が言うには先進国ではもうボディがへこんだ場合はパーツごと交換するだけでシャーシを叩いて直すことなどしないようですが、ここパラグアイではどんなにぐしゃぐしゃになっていてもシャーシを叩きまた元通りにしてしまうのだから驚きです。一度私が遭遇した事故でしたが国道を走る米国ダッジの60年型の大きな車の前タイヤがはずれまるでスローモーションの映画でも見るように側路にあった細い街路樹に衝突したのです。たいした事故じゃないなと見ていたのですがなんとぶつかった個所だけでなく全く関係のない横や後ろのシャーシがまるでガラスが割れたようにバラバラとくずれ落ちて行くのです。あっけにとられ近寄って行くとこの車は過去ナン十回も事故ったらしく、その度板金してばらばらになったシャーシのかけらを裏から石膏のようなものでくつっけているだけなんですね。車の持ち主とおばさんの会話を聞いていると「だからタイヤのボルトがゆるんでるわねって昨日あんたに言ったでしょ」と奥さんは旦那を叱り彼はまた「ボルトが高いから一本しか買わなかったって言ってるだろ、このぼけ」と言い合っており(ううんタイヤにたった一本のボルトだけで走ってんのかあ、アブナイなあ。でも結構みんなそういう車って多いんだよな。近寄らないようにしなきゃ・・・)とビビりましたね。

 やはりここパラグアイの男達にとって車は自分の持ち馬のようなものなんでしょうね。自分でエサやって治療して。本当に彼らの生活に密着しています。こういう車で一度パラグアジョと長旅をしたことがあるのですが、その旅は悲惨でした。また書き出すと長くなるので後日また書きますね。


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