歴史的仮名遣ひ覚え書き

はじめに

歴史的仮名遣ひを使つて現代文を書くための覚え書き。

仮名遣ひがわからなければ、国語辞典で確認するのが礼儀。普通の国語辞典なら、歴史的仮名遣ひもちやんと載つてゐる。活用語の語幹の仮名遣ひや、字音仮名遣ひは、たいてい調べればわかる。だからここには書いてない。調べよう。

でも助動詞やら助詞やら活用やらが絡んでくると、わけがわからない。辞書で引きにくいと思はれるものについて、少しばかりの覚え書きを。

「現代仮名使い」のことを「現仮名」と略したりしてゐる。ちなみに屁理屈太郎は、文法なんてからきしなので、間違ひやら勘違ひやらも多いと思ふ。ご指摘はいつでも大歓迎。

索引のやうで索引じやない

日本語を知つてゐれば即座にわかることでも、私にはわからない。

以下、目次かもしれない。

サ行変格活用

「〜しよう」が正しい(「〜しやう」ではない)。

「現代仮名使い」と同じ。

語(現仮名) 未然 連用 終止 連体 仮定 命令
する(為る) し(ない)
せ(ず)
し(よう)
し(ます)
し(て)
する する(こと) すれ(ば) せよ
しろ

カ行変格活用

「来よう」が正しい(「来やう」ではない)。「来い」が正しい(「来ひ」ではない)。

「現代仮名使い」と同じ。

語(現仮名) 未然 連用 終止 連体 仮定 命令
くる(来る) こ(ない)
こ(よう)
き(ます)
き(て)
くる くる(こと) くれ(ば) こい

四段活用

「現代仮名使い」では五段活用と呼ばれてゐるが、増えた一段は実は音便でしかないらしい。

「ある」は、ほとんど助動詞みたいに頻出するので要注意。「入る」は「気に入る」などに通じる。

ハ行四段活用のウ音便に注意。「問ひて」→「問うて」となる(「問ふて」ではない)。

語(現仮名) 未然 連用 終止 連体 仮定 命令
解く 解か(ない)
解か(う)
解き(ます)
解い(て)
解く 解く(こと) 解け(ば) 解け
行く 行か(ない)
行か(う)
行き(ます)
行つ(て)
行く 行く(こと) 行け(ば) 行け
泳ぐ 泳が(ない)
泳が(う)
泳ぎ(ます)
泳い(で)
泳ぐ 泳ぐ(こと) 泳げ(ば) 泳げ
押す 押さ(ない)
押さ(う)
押し(ます) 押す 押す(こと) 押せ(ば) 押せ
打つ 打た(ない)
打た(う)
打ち(ます)
打つ(て)
打つ 打つ(こと) 打て(ば) 打て
問う 問は(ない)
問は(う)
問ひ(ます)
問う(て)
問ふ 問ふ(こと) 問へ(ば) 問へ
思う 思は(ない)
思は(う)
思ひ(ます)
思つ(て)
思う(て)
思ふ 思ふ(こと) 思へ(ば) 思へ
いう(言う、云う) いは(ない)
いは(う)
いひ(ます)
いつ(て)
いう(て)
いふ いふ(こと) いへ(ば) いへ
しまう しまは(ない)
しまは(う)
しまひ(ます)
しまつ(て)
しまふ しまふ(こと) しまへ(ば) しまへ
おく(置く) おか(ない)
おか(う)
おき(ます)
おい(て)
おく おく(こと) おけ(ば) おけ
飛ぶ 飛ば(ない)
飛ば(う)
飛び(ます)
飛ん(で)
飛ぶ 飛ぶ(こと) 飛べ(ば) 飛べ
飲む 飲ま(ない)
飲ま(う)
飲み(ます)
飲ん(で)
飲む 飲む(こと) 飲め(ば) 飲め
乗る 乗ら(ない)
乗ら(う)
乗り(ます)
乗つ(て)
乗る 乗る(こと) 乗れ(ば) 乗れ
おる(居る) をら(ず)
をら(う)
をり(ます)
をつ(て)
をる をる(こと) をれ(ば) をれ
まいる(参る) まゐら(ない)
まゐら(う)
まゐり(ます)
まゐつ(て)
まゐる まゐる(こと) まゐれ(ば) まゐれ
ある(有る、在る) あら(ず)
あら(う)
あり(ます)
あつ(て)
ある ある(こと) あれ(ば) あれ
いる(入る) いら(ない)
いら(う)
いり(ます)
いつ(て)
いる いる(こと) いれ(ば) いれ
死ぬ 死な(ない)
死な(う)
死に(ます)
死ん(で)
死ぬ 死ぬ(こと) 死ね(ば) 死ね

上一段活用

「居る(ゐる)」「用ゐる」「率ゐる」は、ワ行上一段なので「ゐ」となる(「い」でも「ひ」でもない)。ワ行上一段はこの三語だけらしい。丸暗記がよいかも。

「老いる」「悔いる」「報いる」は、ヤ行上一段なので「ひ」にはならない。ヤ行上一段はこの三語だけらしい。これも丸暗記か。

語(現仮名) 未然 連用 終止 連体 仮定 命令
いる(居る) ゐ(ない)
ゐ(よう)
ゐ(ます) ゐる ゐる(とき) ゐれ(ば) ゐろ
用いる 用ゐ(ない)
用ゐ(よう)
用ゐ(ます) 用ゐる 用ゐる(とき) 用ゐれ(ば) 用ゐろ
恥じる 恥ぢ(ない)
恥ぢ(よう)
恥ぢ(ます) 恥ぢる 恥ぢる(とき) 恥ぢれ(ば) 恥ぢろ
強いる 強ひ(ない)
強ひ(よう)
強ひ(ます) 強ひる 強ひる(とき) 強ひれ(ば) 強ひろ
悔いる 悔い(ない)
悔い(よう)
悔い(ます) 悔いる 悔いる(とき) 悔いれ(ば) 悔いろ

下一段活用

「植える」はワ行下一段なので「植ゑる」が正しい。ワ行下一段は、どうやら「植ゑる」「飢ゑる」「据ゑる」の三つしか存在しないらしい。丸暗記すべきかも。

「越える」「燃える」などはヤ行下一段(終止形「越ゆ」「燃ゆ」)なので、「え」のままでよい(「へ」にはならない)。

他に「甘える」「癒える」「怯える」「覚える」「消える」「聞こえる」「肥える」「凍える」「冴える」「栄える」「すえる」「聳える(そびえる)」「絶える」「萎える(なえる)」「煮える」「生える」「映える」「冷える」「増える」「吠える」「見える」「萌える」「もだえる」も同じで、全部「え」のままでよい(「へ」にならない)。これで概ね全部らしいのだが、丸暗記するには少し多いかも。まあでも、そのうち覚えられるでせう。

「絶える」は(上述の通り)「え」になるが、「堪へる」「耐へる」は「へ」。紛らはしいので注意。

語(現仮名) 未然 連用 終止 連体 仮定 命令
考える 考へ(ない)
考へ(よう)
考へ(ます) 考へる 考へる(とき) 考へれ(ば) 考へろ
植える 植ゑ(ない)
植ゑ(よう)
植ゑ(ます) 植ゑる 植ゑる(とき) 植ゑれ(ば) 植ゑろ
越える 越え(ない)
越え(よう)
越え(ます) 越える 越える(とき) 越えれ(ば) 越えろ
甘える 甘え(ない)
甘え(よう)
甘え(ます) 甘える 甘える(とき) 甘えれ(ば) 甘えろ

形容詞

形容詞の語尾はイ音便なので、「い」のままでよい(「ひ」にはならない」)。

ウ音便に注意。「高く」→「たかう」、「涼しく」→「涼しう」となる(「たかふ」、「涼しふ」ではない)。「現代仮名使い」の「おめでとう」も同じ仲間で、歴史的仮名遣ひでは「おめでたく」→「おめでたう」となる。

語(現仮名) 未然 連用 終止 連体 仮定
高い 高から(う) 高かつ(た)
高く(なる)
たかう(なる)
高い 高い(とき) 高けれ(ば)
涼しい 涼しから(う) 涼しかつ(た)
涼しく(なる)
涼しう(なる)
涼しい 涼しい(とき) 涼しけれ(ば)

助動詞

推量の「よう」は、「よう」のままでよい。が、比況の「ようだ」は、「やうだ」になる(関連「様」字音「やう」)。

語(現仮名) 未然 連用 終止 連体 仮定 命令
ない(否定) なから(う) なかつ(た)
なく(なる)
ない ない(とき) なけれ(ば)
た(完了、存続、回想) たら(う) た(とき) たら(ば)
う(推量) う(が)
よう(推量) よう よう(が)
らしい(推量) らしから(う) らしかつ(た)
らしく(なる)
らしい らしい(とき) らしけれ(ば)
まい(推量) まい まい(が)
そうだ(推量) さうで(ある) さうだ さうなら(ば)
だ(指定) だら(う) だつ(た)
で(ある)
に(なる)
な(こと) なら(ば)
です(指定) でさ(う) でし(た) です です(が)
である(指定) であら(う) であつ(た) である である(こと) であれ(ば) であれ
ようだ(比況) やうだら(う) やうだつ(た)
やうで(ある)
やうに(なる)
やうだ やうな(こと) やうなら(ば)
そうだ(様態) さうだら(う) さうだつ(た)
さうで(ある)
さうに(なる)
さうだ さうな(こと) さうなら(ば)
ます(丁寧) ませ(う)
ませ(ん)
まし(た) ます
まする
ます(こと)
まする(こと)
ますれ(ば) ませ
まし
たい(希求) たから(う) たかつ(た)
たく(ない)
たい たい(こと) だけれ(ば)

指示語

指示語。「さういふ」のやうに、ほとんど一語になつてゐるものもあるが、以下の原則に従へばいいはず。

現仮名 歴史的仮名遣ひ
こう かう
そう さう
ああ ああ
どう どう

その他(おまけ)

ほとんど名詞と化してゐる「気遣ひ」「間違ひ」などは、動詞の連用形なので「ひ」が正しい(終止形「気遣ふ」「間違ふ」)。「面白い」「力強い」などは形容詞なので「い」が正しい(終止形「面白い」「力強い」)。

程度を表はす「くらゐ」は「位」から来てゐて、「ゐ」が正しい。

「あるいは」が正しくて「あるひは」は間違ひらしい。が、間違ひのはうも相当に広く行なはれてゐて、無視できないらしい。

「ゆうべ」と「ゆふべ」は違ふものらしい。「ゆうべ」は「夜べ(よべ)」が「ゆべ」→「ゆうべ」と延びたもの。「ゆふべ」は「夕べ」の字音仮名遣ひ。

参考文献等

屁理屈太郎 日常の屁理屈に行く