マルヒニッキ


3月1日

 右ひざにつづいて腰の右側のあたりまで痛くなってきました。ひざをかばっているせいかもしれない。自転車のペダルをこぐときに、なんかうまく言えませんが、腰でかばっているようなかんじです。
 季節の変わり目を告げているのであろう古傷のためにも、とっとと春になってくれねば困る。というわけで、気の早い桜のよそおいです。



 さてさて大評判の短編七選のコーナーが今月もやってきたヨ! ぼっちゃんもじょうちゃんも、かたわもきちがいもちょんもくろんぼも、みんな仲よくごらんなさい。さあさ寄っといで! 黄金バットのはじまりはじまりー。

  バランディオ/野郎海松
  夜空とエクスペリメント/ラリッパ
  カート選手権/(あ)
  無風状態/戸田一樹
  赤い小さなマール/川島ケイ
  ささやかな贋・預言の書/海坂他人
  ゴーゴーパンチ/るるるぶ☆どっぐちゃん

 第7期の注目は『無風状態』。なんだかものすごく気になる作品です。なんなのだろう。なんでそんなことを言うのだろう。と、気になってしかたないのだけれども、この感覚は、主人公のそれと同じなのではないか、と投影してみると、結末に共感せざるをえなくなる、というのは、たしかな読書体験であると思われます。じゃあなんでも短く中途半端に書けばいいのかというと、そうではなく、気になるというほどの興味をそそるのは、送られてきたメールの内容が、一般的な意味を有する暗喩だからだ。自分の知らないところで自分が他人を苦しめているのではないか、という不安をあおる内容であり、かつそれは事実確認のおよばない不可知の領域に対する加害妄想であるから、いったんこの不安にかられたら気にしつづけるよりほかはない。まったくイヤなメールだ。主人公と相手とのあいだには、なにかこれに至る物語があるのだろうが、それをすっかり省くことで一般性を獲得した。でも、「関西の、それほど有名ではない私立大学」うんぬんと、ここだけ妙に具体的なのは、よくない意味で気になる。
 大胆な省略でゆくと、『バランディオ』もそれで功を奏したと言える。さんざん彼の悪口を言ったあとで、思わず「でも、おれは好きだぜ、バランディオ」と言ってしまうようなキャラクター。ろくでなし。ひとでなし。夜の闇だけが、おまえの味方。という、たいへん私ごのみのダーティー・ヒーローなのでありますが、この作品は、そんな彼のキャラクター造形に終始しきった、と見てさしつかえあるまい。経緯の詳細を思いきり省いた半生の略歴である。ゆえにアラスジではある。けれども、短く刻みこんで体現止めを多用した文章のスピード感で、読者は彼とともに波乱の半生を一気に駆け抜けるだろう(この点でカッコのルビはジャマだった)。これは「アラスジ文学」とでも呼んで、千文字のワクならではの形態として認められるべきだと思います。
 個人的に短編史上ベスト・タイトル賞をさしあげたい『ゴーゴーパンチ』もまた、省略の妙味がある。『バランディオ』と同様に、かなり刻んだ文章であるが、この作品の場合はスピード感ではなく、投げやり感である。描写と展開の省略も投げやり感だ。じっさいのところ、物語の前半は、どうでもいい、くだらない話なのである。しかし主人公は、くだらない宇宙人どもをなぐらずにはおれない。あらゆる敵をなぐる。それがボクサーだからだ。地球の平和のためでも、自分のチャンスのためでも、なんでもいいからなぐるのだ。そんな作品に「ゴーゴーパンチ」以上の題名はありえない。でも主人公には、回答できない自問がある。宇宙人の口かなにかを借りたそれは、やさしい妻の言葉がいっそう責めたてる彼の弱さであり、また人間らしさでもあるのだろう。そして哀しいかなボクサーは、弱い自分をなぐれない。
 といったところで今月の黄金バットはこれにておしまい。さて来月はいかがあいなりましょうか。いい子にしてお父さんにこづかいをもらって、また見にきてね! ではではさよおならー。

2月28日

(C) Eishi Kon, 2003



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