大感想! 短編第1期感想大全


大感想! 短編第1期感想大全

 短編第1期の、いわゆる全感想です。「全作を読了した読者」に向けて書いていますので、まずは全作品をかならずお読みのうえで各感想をご覧被下度奉願上候。
感想者:紺詠志(kontic@geocities.co.jp) シコウ回路

久遠電脳雑技団内『「短編」用掲示板』に、ほかの感想者の感想のインデックスが掲示されています


こちらリーディング・カンパニー/野郎海松さん
 ふたりの関係のほほえましさがよくわかる、かわいらしい好作。
 特殊な仕事に題材を取りながら、このストーリーでは萎縮というか、ものたりなく感じられ、初読では、べつにどんな仕事だっていいじゃん、と思って、かえってこの仕事の特殊さがカラブリの感をひどく深めたが、あらためて考えてみると、辞めるなどと言い出して、サトちゃんを困らせてからかい、ついでに特上ロースをせしめるのも、『リーディング』のテクニックなのかもしれない。確信はない。
 タイトルで、もっと軽妙なノリを期待したが、そうでもなかったのは、地口の文章が、構文としてしっかりしすぎていたためかと思われる。好きずきだろうけれど、一人称なのだから、もっとセリフに接近して、文章をくずしてもいいように思った。[★☆]

Service Business/橘内 潤さん
 『御同業』からして、赤んぼう同士のひそかな会話だろうと思ったが、だとすると母親同士の会話において示唆が希薄だから、『家の子も』は「家のこの子も」としたほうが存在が明確になる。『あばよ』とか言うのもよくわからないから、母親同士で別れのあいさつが交されたほうがつながりがよい。夢のなかに去った者に対する『あばよ』なのかもしれないが、いずれにしても、会話文の前段での『サヨナラ』は無用だろう。
 ショートショートとしては、オチがブレたと思う。二段がまえのオチになっているが、「私はだれ?」系のオチは、あの対話文での見せかたでは冗長であり、眠りこけたことに対応する『下らねえ夢』というオチは、降ってわいたようなものであって、やはりメインは前者にあるので印象が希薄になっていて蛇足に感じられる。
 ブラック志向のユーモアとしては、新味のあるネタではないし、述べられている皮肉もありがちだ。二段がまえのオチが成功していたら、ずっとよくなっていたと思う。こういう、ありがちなものを、ありがちでなく見せようとする、アレンジへの挑戦は、ネタの枯渇にあえぐショートショート界において、たいへんに意義のあるこころみだと思うので、大いに応援したいところ。[★]

ただいまお悩み中/ツチダさん
 いいかげんでおもしろかった。もちろん、いいかげんに書かれたものでないことは、『アパート』の単語がピタリおさまったうえで1000字で終わっている点からして明らかだ。たぶん、主人公は、ここではとてもじゃないが書けないようなことを、ヤローのアパートでしたのだと思う。火事の話があったせいか、放火でもしたんじゃないかと想像したが、まあとにかく、ましてや結婚をひかえた身では、およそ公言できないようなことをしでかしたのだろう。先を書かなかったというより、書けなかったのだ。電子メールを感じさせる(すくなくとも小説らしくない)書式が、この未完の手記のような手法を助けているとも思った。
 この主人公は、自己を冷静に観察する余裕があり、じっさいには、なにもちっとも悩んじゃいないんだろうなあ、と思えて、これまたおもしろかった。一般的にいえば、ソープ嬢という現状は不幸であり、結婚という未来は幸福であり、当人もそう認知しているものの、ぜんぜん実感はしていないような軽薄さがある。えてして抽象的な幸福願望というものを、それとなくバカにした作品だと思った。[★★☆]

アルチンボルドのように/マニエリストQさん
 アルチンボルドが花や野菜で分解した(あるいは構成した)肉体のパーツは、それぞれ生物学的な意味での細胞になぞらえることができ、退行によって最終的に達する『小さな小さな小さな虫』とは、原初の単細胞生物のことだろうと思った。たんに胎児であるならば、アルチンボルドとは関係なくなる。とはいえ、現状自己否定としての胎内回帰願望を描いたものであって、けっきょくその願望の行き着くところは、虫のような、ちっぽけな存在であり、また、それは主人公が忌避したところの汚い大人を構成するパーツだという、むなしくて皮肉な結末だ。
 抽象的な言葉の連鎖に感心していたので、最後で『子宮』という言葉が出てきたのは、もったいないと思った。[★★]

鎌倉物語/ハチミツボーイさん
 散漫に読みにくいよりも、こうギュウギュウに読みにくいほうが好きだ(フェチみたいなものだろううか)。また、ひとつひとつの文章もヘンだ。ヘタといえばヘタなのだろうが、比喩表現には独得の感性が見られると思う。ストーリーがわりと論理的で、ちゃんとしたオチらしいオチもあるのは、この作風ではかえってマイナスだと思った。純粋に、ヘンな文章のヘンぶりをたんのうしたかった。
 オチとなる最後の文が、スマートでないので、すっきりオチた気がしない。オチの文としては情報が多すぎた。展開をくふうして、この段階でなぞを「母親にばれてしまった少女がいつもやっている悪事とは?」まで明らかにしてひっぱっているようにしておき、オチの文をキセルにしぼるのが理想だ。[★]

20世紀/坂口与四郎さん
 主人公は、まず、ただ漠然と現在に違和感をおぼえ、その理由を過去に求めて、とりあえずバス停に行き、偶然そこにいた少年たちに与えられたヒントをもとに、野球場へ行ってまたまた偶然に思い出の女性と出会い、過去の欠落を埋めて現在を補正し、かつ子どもの名前という未来まで与えられて現在に帰ってくる。時間SF(ではないが)における「ちょっといい話」の王道だが、主人公がちっとも努力をしていない幸運なだけの人間だというのが、もの足りない気がした。
 こちらは散漫に読みにくく、文章に秩序がない。加えて、素っ気ないくらいの平易な言葉づかいと、徹底的なご都合主義ですすむストーリーの展開が、いびつで無機質な作品世界をかもしだしている。が、これが結実しているのは、バスに乗ってから野球場での邂逅までの現実とも非現実ともつかぬ一連の幻想的な過去への旅においてのみだと思う。その過去への旅によって現在を肯定する結末に至るのだから、この作品のベースは現在現実にあるのであり、リアルな作品世界が基本となるにふさわしい。これでは、せっかく違和感をぬぐった現在の幸福までも、幻想の延長、ご都合主義のひとつに見えてしまう。[★☆]

朝顔/yuccaさん
 『私』は『朝顔』なのだろう。最後の五行あけ以後、視点が変わっているわけだが、行あけを濫用しすぎたせいで行あけの意図が伝わりにくいと思う。こうした作風には、いかにもショートショートらしいメリハリを求めはしないけれども、いくらか欲しい。
 『貴方』に触れられることはできても、触れることはできないという、いっぷう変わった「片思い」の哀しさが、切々とつづられている。文章が苦手なタイプで、読みすすめるのにひじょうな苦心と忍耐を要した。もちろん、ムシズが走る、というのも感動のひとつにはちがいない。もっと詩情ゆたかな文章であれば、受け入れやすいのだけれども、書式のわりにそうでなく、不器用なまでにストレートな言葉の連鎖に、なにやらミゾオチのあたりをスプーンでエグられるような痛痒をおぼえ、とにかく私にとってこれはホラーだった。
 この作品世界において、『貴方』という人間は『私』のなかにのみ存在している。そんな(読者にとっては)実体のない『貴方』に実体的な接触を渇望しているのだ。恋愛のもつ、傲慢とも言える一方的な面が、如実に描かれているように見えて、こわかった。ストーカーにもなれない花だから、まだいいのだけれど。[★☆]

ザッピング/久遠さん
 初読では、行あけからして、テレビをザッピングしている『男』はテレビのなかにいるというオチで、つまり、だれもいない部屋でテレビがつけっぱなしになっており、そこに『誰か』(だれでもないだれか)が来て消したのだと読んだが、あらためて、行儀わるく文章をバラして再構成して読んでみると、どうも『男』には、妻を裏切った男と、妻に裏切られた男とがいるらしい。となると、テレビをザッピングしている『男』が出ているテレビをザッピングしている者がいる、ということで、じつはポルターガイストの話なのかもしれない、と思ったものの、確証は本文からは得られず。裏切りも裏切られもしたひとりの男なのかもしれないし。まあ、いずれにせよ、ふしぎな話だった。
 体言止めで表現されている番組の数をかぞえると7つあって、つまり新聞のテレビ欄のメインをかざる主要な地上波放送局の数だ。べつに各局の特色を書きわけているとは思わなかったが、気づいたので。なかなかコっている。
 いきなり私事だが、私の父はものすごくザッピングをする。それがイヤでイヤでたまらず、今もって、ザッピングは破壊的な暴挙であると嫌悪しているが、こんなふうにコラージュみたいなおもしろさがあるのかと思えば、捨てたものではないのかもしれない。現実に、これほど暗示的な展開をするザッピングができればの話だけれども。[★★]

転送/ラリッパさん
 尿意を伏線にしているが、どちらかといえば鼻へのコンプレックスのほうが伏線にふさわしいのではないだろうか。オチへのもっていきかたが唐突かつ強引に感じられ、せっかくのオチがとってつけたような印象になってしまった(尿意なら唐突であっても気にならないだろう)。むろん両方とも伏線に盛り込むのが理想だ。
 生殖器を「不要」と判断した機械はやはり失敗作なのか、それとも彼はインポかなんかなのか。後者なら、もうひとヒネリできたショートショートになれたと思う。
 以上、全体的にネタを書ききれていない不完全な印象があった。ショートショートには、スキのない完全性が必要だと思う。[★]

誕生日/えむいとうさん
 ていねいな文章で、読みやすい。ただ、描写が記録的すぎて、八月に新聞の読者欄で見かける投稿話のように見え、そのわりに偶然の一致が多くてリアルな内容ではないから、もっと小説らしい印象的な比喩などを盛り込んでもよかったんではないかと思った。ものたりないかんじがした。
 これが美談かどうかというと微妙なところだろうと思う。個人的な体験だが、ともに暮らしていた祖母の痴呆を目のあたりにし、私は彼女のボケに順応してふるまうことができなかった。罪悪感と哀しさがブレーキになった。だから主人公の率直な行動を率直に認めがたいが、事情を考慮すれば、彼はきっと孝行をしたのだろう、とは思う。[★★]

盂蘭盆/海坂他人さん
 こういう、においたつような、場の空気を感じさせるような文章には、あこがれてしまう。
 死者のたましいが、市発行のパスを使ってバスに乗るというのは、妙な話だけれども、妙な話なのであり、その妙さが、霊との遭遇よりも図書館の混雑とかタダ乗りの不満といった俗事のほうが重大事でありそうな主人公のドライな感覚と観察的な視線、そして日常の風景をしっかり描きこんだ作品世界のなかで、幽玄に昇華されている。幽霊みたいなものは、このように、日常のちょっとしたスキみたいなところにさりげなく存在しているのかもしれない。いや、存在しないのかもしれない。じっさいに交通局のミスなのかもしれないのだ。偶然性に満ちた日常のなかで、うまくぼかされていて、いずれにしてもこの老婆の存在感は幽玄だ。
 文句なしの佳作であり、また個人的に学ぶところが多かった。[★★☆]

不老不死/黒木りえさん
 ルーツとルールの説明に多くを割いていて、物語としてはものたりなくもあるが、そういう、なにやら数学的にさえ思えた説明を冷淡にする『女』の言葉から、彼女の宿命の重苦しさがにじみ出てくる。流麗でありながらどことなくいびつな文体の力だろうか。とにかく、うつろな情念がただよう作品世界を、おそろしくたんのうした。
 指一本ぐらいの肉じゃダメなんだろうか、と思ってしまった。ダメなんだろうけれども。[★★]

さらばドラゴン/紺詠志さん
 ラリッパさんの全感想でのご指摘については、かなり怪しげな疑惑ながら、あえて試合が終わるまで黙秘していようと思う。
[試合後追記]ご指摘のとおり作者は「琉金」を「龍金」と誤解していました。お恥ずかしいかぎり。

さようなら/川島ケイさん
 なぜ死ぬのか、いろいろ推理してみたけれども、けっきょく自殺か病死かさえわからなかった。ともあれ、どういうかたちであれ、彼女が死ぬ理由は、周知の事実なのだろう。周知のおよばぬ読者にとっては、彼女という一個人の死じたいにはあまり重みがない。
 夫のことばかり書いているので、この人は結婚するまでのあいだ、ずいぶん孤独な人生を送ってきたのだろうと思い、『さようなら、みんな』はじつにしらじらしく感じられた。というか、もはやミスではなかろうか。この一言で、「その人の人生が見えてくる遺言」というふうな読み物としてのおもしろみも、リアリティーもない作品になってしまっている。[★]

海のそばで/Akyさん
 きっと十年前、同じような嵐の日に、主人公の父親の船が沈んだのだろう、と憶測した。だとすると示唆が希薄だから、あくまで憶測にとどまる。
 荒削りながら描写にはセンスを感じる。ただ、それに字数を割きすぎて、なかなか物語が見えてこず、くどい時間(というか字数)かせぎのようにも思えてしまった。『仔犬』を活用してもうちょっとストーリーを展開できたんではないだろうか。[★★]

カロンの鈴/黒瀬無人さん
 ああ、こわい話だなあ、と妙に納得してしまい、こわくなかった。『姉の声』によっていったん救われてから、のほうが典型的ながら怪談のオチとしては活きると思う。すくなくとも結末の文はつめこみすぎだ。
 しかし、なにより残念だったのは、鈴の音という非物質的な存在を貫き通してほしかったことで、新たな謎を提起して余韻を残してはいるが、『少女』という明確な姿に具現してガッカリした。タイトルからすると少女は『カロン』の使いなのかもしれないが、伏線としてすでに登場しているのならともかく、この死神のようなものの存在感がいきなりチンプになってしまったと思う。[★☆]

総感
 個人的に歴史的に、むかし同じリングでご一緒させていただいていたかたがたの新作1000字が読めることじたいに感動をおぼえた。と同時に、この1000字のフィールドでブランクのあるかたがたに負けるわけにはいかぬ、という妙な敵意もあったりして、この点からしてもエキサイティングな第1期だ。
 全体的には、ソツがない反面、小さくまとまった作品が多いように思ったけれども、処女航海にはちょうどよい波風だとたとえれば、順調な船出だと言える。いつか、とてつもない嵐が吹き荒れることを楽しみにしたい。また、数のわりに多彩な作風が集まって、華々しいかんじがし、これまためでたい出航だ。
 文章作法については、縦書きのテキスト・ブラウザで読んでいるのでよけいに気になるのかもしれないが、私はかなり偏狭で、現代一般的でないと思われる特殊なものはあくまで特殊だとし、特殊効果を望んでいる。今回、その特殊な作法が作品にマッチしていたのは、『ただいまお悩み中』だけだった。


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