読書日記 その4

『石心の譜』
石田芳夫 加藤正夫 武宮正樹 趙治勲 小川誠子 (著)
現代書林
ISBN4-905924-29-4

(内容抜粋)

テーマ 「女流棋士について」

pp129-130
 

石田    

 
女性はね、碁に関していえば、限界があるんですよね。 

小川

 
それは自分でも感じることがあります。 

石田

 
 心なんですよ。心が狭いんですよ、女性は。小さな辛抱はできるんですが、大きな辛抱ができないのね。これはどうしょうもないんだよね。女性の場合はね、難しいんですよ。 

 男みたいな性格でしゃにむに勝とうとしたり、碁に対するむちゃくちゃな執念をもったりしたら、あまりかわいくないでしょう?ある、程度の女性らしさを保ちつつ、少しずつ芸をあげていくんじゃないとね。がむしゃらになっても、どうせ大したことないんだしさ(笑)。名人なんて、取れるわけないしね、逆立ちしてもダメです。 

pp159-161

小川

 
女流棋士には何を望みます? 

石田

 
 そうね、何も望むこともないんだけど(笑)。男性と違ってハンディが大きいから「もっと強くなりなさい」とも言いにくいしね(笑)。適当にかわいくて、適当に打てれば、いいんじゃないですかね(笑)。 

小川

 
五十歳、六十歳になっても同じかしら? 

石田

 
 やはり、女性としてのかわいさというのは必要だよね。女流の場合は、低段でも指導碁を打つ機会が多いわけでしょう?やはり、かわいくなければね。かわいいというのは器量とは関係ないんですがね。 

小川

 
 器量を言われたら困るわ(笑)。 男性の碁は知的な要素が強く、女性の碁は情的な要素が強いのかしら? 

石田

 
 それは、個人個人で、ずいぶん違うんだろうけど、ぼくなんか対局の感情の起伏なんて、全然ないね。最初のころは手合の前日は妙に眠れなかったりしたけど、場数を踏んでくると、それもだんだんずうずうしくなってね。だいたい、眠らなくちゃ勝負にならない。僕はまぁ、感情の起伏は少ない方ですが、いっぱんに男の棋士は冷静ですよね。根本的には、女性の方が気が短くて我慢がしにくいんだよね。 
  
 あなたは、のんびりしていて、気が短いか長いかわからないけど(笑)。少し、形勢が悪いぐらいの局面でも、男ならジーッと耐えて、徐々に詰めることができる。女性は、途中で我慢ができなくなって早目に勝負に出て、バンと負けちゃう。いろいろありますけど、まぁ、そういう感じがあるみたいだね。だから、棋譜を見ると、よくわかるね。女性の碁は、たいてい最初から最後までネジリ合いだものね。 

pp203-205

小川

 
女流棋士についてどう思いますか? 

武宮

 
ウーン。 
小川
 
もっと、強くなれとか。 

武宮

 
いや、それは無理だよ、強くなるのは無理だから、しょうがないよ(笑)。 

小川

 
みんなそう言うのね。 

武宮

 
今、女性で碁を打つ人は増えてますよねー。女性が碁を打つのはいいことだよね。

小川

 
プロで打つのは? 

武宮

 
プロで打つのもいいことだよね。 

小川

 
じゃあ、どこがしょうがないの? 

武宮

 
 ゴルフで言えばね、男子プロと女子プロでは体力差がハッキリしてますよね。碁の場合は頭を使うんだから、差がないと思われるかもしれないけど、やはり差はあるんですよね、体力と同じで。 

小川

 
ちょっと、わからない。 

武宮

 
 頭を使うことでは差がないかもしれないけど、どうも、ちよっと違うんだ。やはり、頭の使い方で、男はあっちこっちから一つを見る。女は一方からしか見れない感じがあるのね。男の方が考えが広いんだよね。その違いじゃないかな。たとえば、手を読むこと自体は、男も女も同じかもしれないけど、男は総合的に読むし、女は直線的に読むというところがあるのね。 

小川

 
努力してもダメということかしら? 

武宮

 
 ダメですね。努力してもダメですね。ハッキリ言って絶対ダメだね(笑)。男には勝てないね。女性はね、大体、碁が強くなるように、最初から生まれついていないんだよね。やはり、子供生んで育てるようにできているわけでしょう。だから、無理なんだよ。神様がそういうふうに作ってあるんだから。男と女は全然違うんだから。 

小川

 
でも、杉内先生なんかはすごいわよ。 

武宮

 
うん、すごいけどね、男性の棋士にはかなわないでしょう、結局。でもね、男性にかなわなくても、努力して上達するということはいいことなんだからさ。やっぱり、素直な気持ちで碁を打てるかどうかが問題なんだよ、ひねくれずにね。自分の持っている力を出せればいいわけだから。 

pp258-260

小川

 
趙さんの女流棋士論を聞かせてください。 
 
女流棋士はかわいいか、かわいくないかが問題なんじゃないのかな。はっきり言って、誠ちゃんだって、僕に二目では勝てないでしょう? 
小川
 
・・・・・・・・・・・・・。

 
問題ある? 

小川

 
いくらガンバっても、女流棋士はダメということですか? 

 
 それはね、男と女は別なんですよ。だいたい、身体の構造から違うんだから、女流棋士は女流棋士でいいんだよ、男の棋士とはりあわなくてもね。女の人は、結婚とか、いろいろあるでしょう?結婚して、家庭をもって、そっちのほうの仕事が忙しいのに、そのうえまた碁が強くなろうというのは、すこしよくばりすぎですよ。 

 中性化すれば強くなるかもしれないけど、それじゃあ女流棋士じゃなくなっちゃうんもんね。だから、強くなるためには、結婚しても、自分の腕でダンナを養ってあげるというくらいの感じじゃなくちゃダメだね。養ってもらって、家事だけ主婦としてチョコマカやって、それで碁を打ってもダメだと思うね。女の人が名をなすとしたら、芸能関係がいちばん向いているじゃないの? 
 

小川

 
 それは圭さんも言っていたわ。「女の感性を生かす仕事として、女優ほど素晴らしいものはない」って。演劇には、どうしても女性が必要だものね。碁では、とくに女性であることは必要ないもんね。女流棋士はいなくてもいいのかしら? 

 
 そんなことはないよ! 女流棋士がたくさんいるのは碁界にとっては、すごくいいことだよ。アマチュアが稽古をつけてもらうのにだって、女流棋士に教わる方がずっといいもの。ある女流棋士がね、稽古に行って打ち込み碁をやっていたらね、お客さんの方が白を持っちゃったんだって。それでも、ちゃんと稽古料はもらっていたっていうよ(笑)。誠ちゃんも、かわいいけどさ、碁界には、もっともっとたくさん、かわいい女流棋士の登場が待たれるね。 
小川
 
どんどん新人がふえるといいわね。 

 
でも、面白いもんだね。女流棋士が、女流本因坊なんかになると、一段とかわいく美しくなっちゃうからね。誠ちゃんも女流本因坊になってからは、天下の松坂慶子はだしだもんね(笑)。 

 

テーマ 「浮気について」
小川
 
浮気を肯定なさる? 
石田
 
人によりけりでしょうけど、まぁ、それだけ活力があるとはいえますわね。あまりおとなしすぎて活力がないのも、ダメだし、適当にいろいろと遊んでいるうちなら、いいんじゃないですか?すぎると、また困るけど。 
小川
 
秀行先生の奔放な生き方なんかに共鳴します? 

石田

 
 ぼくには、ああいう生き方はできないし、今の若い碁士には誰もとてもできないですよね。一つには、時代ですよね。うらやましいと思う点もありますね。あれだけやっていながら公認されるのは(笑)。やはり人柄ですよね。あの先生は根は非常にいいんですよね。お酒さえ飲まなければ猫みたいなもんですしね(笑)。 

小川

 
 木谷先生は、それこそ品行方性だったけど、加藤さんは、男の浮気なんかをどう思います? 

加藤

 
 「女遊びをすると芸が磨かれる」という説もあるようだけど、どうかなぁ。自分のエネルギーを発散するだけで芸が磨かれるとは思わないね。ぼくが成人する前だけど、武宮君のお父さんがこんな話をしていたんです。「男の人生には、女と酒と勝負の三要素が必要だ」って。ぼくの場合はね、女は家のカミさん、酒は和洋とも飲むし、勝負は囲碁で、なんとなく全部そろってる(笑)。 
小川
 
前の二つが勝負と関係するかしら。 

加藤

 
 それは、関係すると思いますね、一般的に。ただ、誠ちゃんにしても、男はダンナさんで、お酒のかわりがケーキや果物で、勝負が碁で、女としての三要素はそろってるよね(笑)。ただ、前の二つにしても、勝負に絶対に関係するとは思いませんね。昔のえらい坊さのように、女や酒を断った名棋士が出てきてもおかしくないものね。 
  
 女にしろ、酒にしろ、その他の何にしろ、自分以外のものが原因で負けたというのは、自分自身で逃げているんだと思いますね。むしろ、女でも酒でも足りないくらいのほうが、かえっていいのかもしれないね。いいかえれば、少しは悩みがあるほうがいいんじゃないかと思うわけ。ノイローゼにならない程度にね。 

pp274

 
 ぼくは、あの人に本当にすまないことをいっぱいしている。今もそうだけどね。ぼくは、だいたい、つねに新しい女性を求めてさまよいたい気持ちがあるからね。だから、奥さんにはほんとうに感謝しながら、「早く離婚してもらえないかな」ってそればっかり考えている(笑)。僕の方からいいだすと、慰謝料が高くなるから、こっちは黙っているけどね(笑)。 
小川
 
そう思いながら、一生そいとげるのが夫婦なのよね(笑)。 

 
僕は、いまだかって出先から家に電話したことがないの。 

小川

 
エ、本当?「これから帰る」とか「何時に帰る」とか言わないの? 
 
 夜9時までに帰らないときはね、もう帰らないことになってるの。だから電話する必要ないんですよ。電話するくせがつくとね、いつも言いわけを考えなくちゃいけないでしょ?そうするとねウソがバレる危険が大きくなる(笑)。 
小川
 
ずいぶん寛大ね、奥さんは。趙さんは浮気公認? 

 
とんでもない。僕が女房から信用されているから、電話しなくてすむんですよ(笑)。

小川

 
どうかしら(笑)。では、あなたは信用するとして(笑)、原則として、男性の浮気をどう思う? 

 
 それは、ある程度いいと思う。いいというよりしかたないんじゃないかな。勝負の世界に生きている人間としてはね。だって、手合では、もっているエネルギーを何時間かのあいだで使い果たすわけでしょう? 

 手合いが終わったら、とうぜん、エネルギーを補給しなくちゃならないよね。補給のしかたは、人それぞれに違うと思うけれど、酒やギャンブルにエネルギーを源を求める人もいるだろうし、女性に求める人もいるだろうしね。 

 いずれにしろ仕事で使ったエネルギーを補給するんだから、エネルギー源は遊びじゃなくちゃならないよね。だから、エネルギー源を女性に求める場合には、女房じゃ間に合わないわけ。だって、女房は結婚したときから、第二のお母さんみたいなもんだからね。ダンナを甘やかしてはくれるだろうけど、バカバカしい遊びの相手にまではなってくれないよ。もちろん、これは原則論だよ、ぼくは、奥さんひとすじ。浮気なんか考えたこともない(笑) 

感想

 本書は約20年前の本である。今回、読書日記に採用するに当たり読み返してみて、依然としてその魅力を維持しつづけていることに驚いた。本書に登場している、棋士たち(敬称略)、石田芳夫、加藤正夫、武宮正樹、趙治勲を抜きにして日本囲碁界を語ることはできない。その彼らに対して、同一のテーマをぶつけて思うところを対談したのをまとめたのが本書である。それぞれのテーマについて、棋士の特性が出ていて面白いのであるが、20年後の現在から見て彼らの議論のどの部分を抜粋するのが一番面白いだろうかと考えた。ここでは、「女流棋士」と「浮気」というテーマで抜粋している。以下では、「女流棋士」という点に限って少しコメントすることにする。 
 

 上記の議論で、彼ら女流棋士に対して述べていることで共通していることがある、第一は、女流棋士はそもそも男性棋士には勝てないのだということ。第二が、女流棋士はカワイクないといけないということ。20年後の現在、彼らは驚愕の現実に直面している。というのも、第一には、これほど彼らが熱望していた可愛らしさを十分すぎるほど満たした美しい女流棋士が出現したこと(下記の梅沢由香里)。第二には、彼らがありえないと言っていた、強い女性の棋士が出現したことである。 

 これらの点について、どう考えたらいいのだろうか。思うに、結局、女流棋士が強くなかったのは身体的な差異が原因ではなく、構造要因ではなかったか。女流棋士会制度、さまざまな女流棋戦の充実、これらによって現在の女流を取り巻く強くなるための環境は、昔とは比較にならない。実際には、女性は潜在能力的に言って、棋聖でも名人でも本因坊で獲得する力があるのではないか。しかし、構造要因があり、そこまでの努力ができる環境が整っていなかった。日本の囲碁の歴史を、仮に、江戸幕府による世襲制専門棋士の誕生以後としても、既に約400年が経っているのである。その長い歴史の中でも、その時々の第一人者が腕まくりをするような女性の打ち手は長い間、出現しなかった。

 しかし、最近になって突然変異的に、未曾有の強さを持った女性棋士が出てきた。上記のLui nai weiである。いや、突然と言っては失礼だろう。女性のレベルが全体として上がってきている。女流棋士の一線級であれば、名のある男性棋士が負けても取り立ててニュースにもならない。男は負けても恥ではないし、世間的にも驚きでもニュースでもない。それが最近の囲碁事情の常識である。 
 
 女流棋士枠ではなく、一般枠で棋士ライセンスを取得する女流も出現している。これらのことから考えても、21世紀は女流棋士が大いに活躍する可能性が大きい。彼女らの活躍に期待したい。