わだすのバイオリンだは

これが私の初代のバイオリンです。先の「失禁のバイオリニスト」の物語の前書きにもありましたように、これは実はド田舎の町の楽器店でたったの160ドルで買ったという代物です。物語の通り「便器よりも安かった」というのは事実です。「バイオリンは無くても生活に困らないが、便器は無いと非常に困る」などと言って始めこそうそぶいておりましたが、最近は「バイオリンがあれば、便器などはどうでもよろしい」というような境地に達しつつあるのを自覚して苦笑しています。 バイオリンの胴の中をみると、銘柄を証しする紙が貼ってあって、「『小提琴』中華人民共和国製造」と書いてありました。『小提琴』というのはバイオリンの中国名なのか、それともただのブランド名なのかはよくわかりません。私はこれを1996年に買ってそれから愛用しています。

ところが、値段にもかかわらず、これが以外とよい音をするのです。あるときバイオリンの先生から800ドルから千ドル台のバイオリンにグレードアップすることを勧められましたが、業者が持って来たそういうバイオリンと音を比べてみて何とこの便器よりも安いバイオリンはそれらのグレードのバイオリンと殆ど差がありませんでした。娘のバイオリンの先生はそれを見て、おったまげて「あなた、そのバイオリンはとんでもない掘り出し物だったわね。きっと楽器店の人が値段を一桁付け間違えたのよ」と感心することしきりでした。中国製にはたまにそういうとんでもなく出来栄えの良いミュータントのようなバイオリンが散見するのだとか。

つい最近になって私はミズーラにあるバイオリンショップから、かつてモンタナ大学交響楽団の団員のバイオリニストが使っていたというドイツ製の本格器にグレードアップしました。それでもこの「便器バイオリン」はなかなか捨て難い味があるので、そのまま記念に保存しています。

フィンガーボードにはご覧のように、ギターもどきにプラスチックの粘着テープを貼り付けていますが、あれは初めのスケールの位置を覚える練習用に付けたもので、大変格好が悪く見えますが、あれでなかなか私には役に立ったようです。何回も練習している内に剥がれてしまって残っているのは半分程です。

ボウはあれでも一応合繊ではなく純正の馬の尻尾で出来ています。結構このバイオリンには学生用として売られている低価格の軽い馬の毛のボウがマッチするようで、余り高いボウをあてがってみても鈍重になって軽く弾けません。サラサテのツイゴイネルワイゼンやパガニニのバイオリンコンチェルト#1はこの「便器バイオリン」で弾いた方が西ドイツ製の「ストラデイバリ」のコピー器で弾くよりも上手くいくという意外な結果を楽しんでいます。


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